■ 講師:鈴木寛文部科学副大臣
■ 主催:全国ソフトウェア協同組合連合会
■ 場所:東京・高輪・グランドプリンスホテル高輪
鈴木寛文部科学副大臣は、通産省(現経済産業省)の課長補佐として情報処理振興課、電子政策課で、5年間、情報行政に携わった。通産省退官後は慶応義塾大学SFCなどで、教官としても高等教育分野で活躍してきた。全国ソフトウェア協同組合連合会(会長中島洋MM総研所長)の賀詞交歓会の特別講演会で、副大臣として活動してきた文部行政の変革について、ITとの関わりを軸に話をしていただいた。
通産官僚時代、何度も壁として立ちふさがったのは、予算配分で、道路やダムなどに大量の金額が回されて、情報化の推進や人財育成に関わる要求があっさりと削減されてきたことだった。特に文部予算と建設省の予算では比較にならないほどの金額の差があった。その時代の予算はコンクリート予算だったのである。通産省を退官する時期から「コンクリートから人へ」が鈴木副大臣のスローガンだった。それがこれから審議される2011年度予算案ではついに、文部科学省の予算が国土交通省のそれを上回ったというのである。苦節10有余年、「コンクリートから人へ」の悲願を達成した、というのが鈴木副大臣の感壊である。
その方法論が「熟議」という活動だった。特定の専門家だけで審議する審議会方式のような仕組みではなく、関心のある人、現場の関係者などにドアを開いて幅広い国民で生の声をぶつけて議論しあい、そこから本当に必要な行政課題を形成してゆく仕組み作りだった。タウンミーティングのように現場に出て行って議論することもあるが、インターネットでだれでもがそこからでも参加できる議論の場を設けたのが、大きな特色である。
文部科学省でこの仕組みを作り、教育の現場の声を戦わせた。もちろん、テーマについては文部科学省側から投げるのだが、現場の深刻な状況を背景に、真剣な論争の場となった。問題点を抽出して行政側が政策の優先順位を決めて、また、論争の場に持ち出すと、再び侃々諤々の議論が噴出して、これを元にさらに修整を加える、という過程を踏んだ。その結果、財務省に予算要求する際の確固とした論拠が提示できて、納得させるのに成功したようである。インターネットが行政の仕組みを変えつつある。
さらに内閣府が予算案について行ったインターネットによる国民の意見募集では、36万通ほどの意見が寄せられる中で、ざっと28万通程度が文部科学省関連の声で、国の予算に対する教育関係の関心の度合いを印象付けられた。おそらく、こうした仕組みが今後、小生の新しい政策形成過程に組み入れられてゆくだろう。
きわめてアイデアに富んだ鈴木文部副大臣の講演だった。遅れていた教育分野にも大きな光明を見た思いがする。