■ 講師:中島洋MM総研所長
■ 主催:法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科
■ 場所:東京・市ヶ谷、法政大学新一口坂校舎
筆者が慶応大学SFCにいたころ、修士論文を副査として指導した辻本将晴・東京工業大学准教授が、法政大学イノベーションマネジメント学科で講義を担当していて、ビジネスのスタートアップの苦労話をしてほしいと依頼してきた。
アスキー未来研究所、アスキー24、MM総研大賞、日経コンピュータ、日経パソコンなど、創業に携わったことはいろいろあるが、筆者が最も栄養を吸収したのは、「日経産業新聞」の創刊、発展の時期に、読者の開拓、取材先の開拓、その経験を通じての 日本の産業社会の未来予測や市場創造などの体当たりの苦労のプロセスである。
その中で記者の士気向上、高い視線での取材姿勢、社会正義を貫き、より良い社会を実現することがジャーナリズムの責務として、これを産業社会の取材に持ち込んだのは、大きな成果だったと思う。
第一次オイルショックのわずか6日前という直前のスタートで、中東戦争が1週間前に勃発していたら、日経産業新聞は延期になり、陽の目をみることはなかっただろうという幸運、その後の不況の中で広告収入難で5年近い赤字事業、それを粘り強く紙面改革を続けて、ついに人物に焦点を当てた「人間臭い企画」、エレクトロニクスの最先端の動きを社会の大変革としてとらえた「これがマイコン革命」の企画などの大ヒットによって一気に部数を伸ばし、OA市場と言う新しい成長分野を発掘、促進した結果、広告収入ともに大幅に増加して、ようやく黒字転換した経緯。
結局、日経産業新聞の成功を分析すると、新事業進出の成功には下記の5条件が必要なのではないか。
官庁主導経済から民間主導経済に移行することに着目して、民間産業情報に照準を当てた事。要点1)は拡大する市場を選ぶことだ。先行する「工業新聞」とは違い、製造業からサービス産業へと発展する日本の産業に焦点を当てるとして「産業新聞」と名付けたこと。つまり要点2)は競合との差別化。中小企業が取材対象になることで下がった士気を維持するために、産業ジャーナリズムというコンセプトを確立した。要点3)は従業員の士気を高揚・維持する策を打つ。オイルショックなどに屈しない闘志。要点4)は予期せぬ逆風を耐えきる。日経新聞記者の取材ノウハウ、ルール、マナーを引き継いで、ジャーナリズムの品格を維持した。要点5)は既存事業の資産を活かす~~。
受講生は企業の若手中堅の意欲的な人たちで、質問時間もたっぷり。名刺交換もたくさんした。良い時間だった。