「IT断食のすすめ」

「IT断食のすすめ」

■■  「IT断食のすすめ」
■   著者:遠藤功・ローランド・ベルガ―会長
■     :山本孝昭・ドリーム・アーツ社長
■   出版:日経プレミアシリーズ
■   発行日:2012年月11月9日

 興味深い本である。共著者の一人、山本氏は、大企業向けに情報システムの構築を支援する急成長中のベンチャーである。その彼が、というべきか、そういう彼であるからこそ、というべきか、社会の、特にビジネスマンの「IT中毒」に警鐘を鳴らす。

 メールの洪水、ファイスブックやツイッターでの情報交換、パワーポイントでの水増しのプレゼンテーションなど、ITに依存し過ぎたコミュニケーションは「中毒」という危機的な状況に入り込んでいる、というのである。パソコンやスマート端末に四六時中取りついて、それで有用な情報をふんだんに吸収しているという錯覚に陥っている。たとえば、自分の考察を加えないで、画面に現れるだれかの書き込みをコピーペーストして自分の意見だと錯覚する。

 人間本来の豊かな発想力の根源であるアナログの貴重なコミュニケーション、あるいは、創造的なアナログ空間が犠牲にされて、病的な症状が現れ始めた、と診断する。

 その治療法が「IT断食」である。パソコンや電子メールの使用を禁止し仕事をする。そんなことでは仕事が止まってしまう、と考えること自体が、すでに「中毒症状」を来している。メールを止めて、電話でビジネスの話をする。実際に先方に出向いて商談をする。著者らはそうしたことを通じて創造的な仕事の仕方を取り戻そうというのである。気が付いてみると確かに、「IT中毒」にかかっているビジネスマンは少なくない。

 筆者は「IT断食」まで必要かどうかは自信がないが、かつての「飲みニケーション」の付き合いの中から多くの刺激があって、豊かな情報を得てきたのは今日、なお、ITによる情報収集をはるかに上回る環境だと思っている。オフィスでパソコンにしがみつき、インターネットの中から情報を見つけ出そうとばかりしているビジネスマンを見ていると、「これで仕事がまともにできるのか?」と疑ってしまう。

 新聞記者の昔から、情報は人に会い、小売り店頭を見て歩き、感性を研ぎ澄まして感じ、読み取ってくるものだと思ってきた。この本を読みながら、そうした原点を思い出した。

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