ICTにより促すイノベーション-尊敬に値する高効率経営への挑戦-

ICTにより促すイノベーション-尊敬に値する高効率経営への挑戦-

編集長が推す「このセミナー」
●2007年10月24日 科学技術と経済の会(東京・千代田区ホテルグランドパレス)
特別講演 MM総研代表取締役所長 中島洋


 情報技術の発展は企業経営のあり方を急速に変貌させる。昨今、企業経営者が抱く不満の中には、その科学技術史的視点を欠くために陥った誤りがいくつもある。たとえば、「内部統制」の縛りが急に増えてがんじがらめだ。本業よりも内部統制に力を入れなくてはならないくらいで、本末転倒。経営の自由度を狭くすることは企業競争力を弱める。内部統制コストで利益が圧迫されて、上場見送りのベンチャー企業も増えて、これでは経済の活力がそがれる。こういった類だ。

 しかし、日本に限ってみても、企業の歴史は社会との対決と折り合いの連続である。企業が社会に害悪を流し、それを防止するために規制ができて企業活動には制約が加えられる。古くは足尾鉱山事件や水俣病、四日市ぜんそくなど、地域住民に重大な健康被害が出て、その原因として企業が排出した廃液や排煙であることが特定された。排出する物質への規制、利用できる原材料や生産方式に規制が加えられた。制約の厳しさを嫌って海外に工場を移転して「公害の輸出」を行う不届きな企業まで現れた。

 また、生産物に有害物質や細菌が混入して消費者に被害が広がったこともある。ここでも使用原材料や製造プロセスに厳しいルールが課せられ、それを守るための内部統制の仕組みが構築された。労働基準法の遵守やセクハラ、パワハラの防止体制、個人情報保護の法やための管理体制の強化も企業に義務付けられたやっかいなルールである。失敗すれば多大の損害が生まれる。

 周辺住民、消費者、従業員と、摩擦を起こすたびに、企業はこれらの関係者に損害を与えないためのルールを課せられることになったのである。そして、現在は経営者や従業員が不正なこと、あるいはミスを犯したために、株主や投資家が不当に、多大な損失をこうむることになった。現在、焦点になっている内部統制の対象はこうした株主や投資家を保護するためのものだ。財務や経理、すべての従業員の日常のビジネス活動など、関係する業務プロセスが幅広いために身近に感じる機会が多いが、これまでの内部統制の延長線上にある。急に出現したわけではない。

 しかも、そこで遵守すべきルールは、情報技術を使って追跡が可能で、逆に、こうした情報技術があるが故にこそ、厳しいルールが可能になったのである。その情報技術が可能にした事柄を一言で言えば、「見える化」である。情報技術によって、経営者や従業員の活動、工場の操業の中身が透明性を増して、不正やミスを発見しやすくなった。ところが、それはまた、企業の無駄を省き、問題点を浮き彫りにして改善を強力に推し進める基盤ができあがることも意味する。つまり、投資家、株主の損失を回避するために構築した「見える化」の仕組みは、同時に経営の品質を向上させ、収益力を上げる高効率経営を確立する道にもつながるのである。科学技術は企業のあり方、企業経営のあり方を変え、あるべき姿へと経営者や従業員を導く。それを法律や制度が強制力を背景に強力に推進するだけである。いやいや強制されているうちに、高効率経営に導かれた結果が見えてくる。それが社会と企業の折り合った場所となるだろう。

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