雲を掴め--富士通・IBM秘密交渉

雲を掴め--富士通・IBM秘密交渉

編集長が推す「この1冊」
雲を掴め--富士通・IBM秘密交渉
伊集院 丈著
1785円(税込み)
日本経済新聞社、2007年11月発行


 1980年代前半、コンピューター産業を次世代主力産業に育成しようと注力す
る日本の通産省、業界と米国のコンピューター産業の雄、というより世界のコ
ンピューター産業の覇者、IBMとは最先端技術や基本ソフトを巡って激しいせ
めぎあいを繰り広げていた。

 IBMはすでに世界の70%と、コンピューター市場の大半を制覇していた。他の
メーカーはこの市場に食い込むのは絶望的に思われた。すでにIBMマシンを使
用しているユーザーを他のメーカーのシステムに置き換えさせるには、IBMの
技術情報を必要とした。それをIBMは開示しなかった。その一端をつかんでも、
知的所有権として保護し、その使用を許諾しなかった。

 不法と合法との境界線上で、日本の各メーカーは様々な活動をするが、本書
は富士通の幹部としてIBMと正面から激突して不可能とも思える交渉に当たっ
た担当者、鳴門道郎氏の記録である。小説の形をとっているが、中身はドキュ
メンタリー、事実に基づいたものといえるだろう。この本では83年ころまでを
取り扱っている。当時の役員の二宮昭一氏は「三宮」という名前で出てくるな
ど、多少、手を加えているが、どの登場人物もだれのことか推定ができるよう
になっている。この事件に限らず、記事の情報をめぐって、何度か夜回り(夜
討ち)でご自宅までうかがったことがある。会うことができないことも多かっ
たけれども。

 筆者は日本経済新聞記者としてこの直後の1985年から情報産業を担当し、こ
こで結ばれた秘密契約が破られたとして紛争が再発した時期に、この事件を取
り扱った。日本経済新聞の取材チームのリーダーとしていくつかのスクープを
飛ばし、テレビに出て解説を担当もした。日経ビジネスなどにも関連記事を書
いたが、それは著者がさらに書き続けるとすれば、この本の続編に相当する部
分である。当時の山本卓真社長は「この事実については墓場まで持ってゆく」
といって、筆者が書いた記事についてイエスもノーも言わなかったが、ぜひと
も伊集院氏には続編を書いていただき、当時の真相を知りたいものである。

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