編集長が推す「この1冊」
「ウィキペディア革命」
ピエール・アスリーヌほか著、佐々木勉訳、木村忠正解説
岩波書店発行
2008年7月25日
インターネットそのものが巨大な百科事典のようなものと感じたものだが、「ウィキペディア」が登場してから、考え方は少し変わった。インターネットは巨大な百科事典を構成する母体である、というのが、その新しい見方である。インターネットの中にある情報や知識には正確でないこと、意図して捻じ曲げられたもの、単なる噂や観測にすぎないものが、あたかも正しい情報や知識のように掲示されている。
ウィキペディアはそれを正確な知識の塊にブラッシュアップしようというチャレンジである。大げさにいえば、世界中の知識を正しいと認められるものに絞って集積し、巨大な百科事典に仕上げてゆこうという運動である。項目を設定し、その項目に知識や情報をもつ多くの人が投稿する。一定の基準に沿ってそれを掲載するが、その知識に反論があるものがいれば、裏側で根拠を突き付け合って戦わせて、修正を加えてゆく。今ある記述が最終稿とは言えないが、まあ、ある事項についての勉強を始めようという入り口としては十分に機能する。
ウィキペディアが充実すると共に、いくつかの分野で大きな変化が現れた。本書は、フランスを舞台に、ウィキペディアが引き起こした変化をまとめたものだが、同じことが日本でも現れつつある。何が変わりつつあるか、を知る上では、フランスでも日本でも大きな違いはない。興味深い時代の変化を知るこ
とができるだろう。
変化はどこに現れたか。まず、教育、研究の分野である。学生たちは、レポートを書くに当たって、ウィキペディアから出発しない者はいなくなった。ただ、学生たちが陥りやすい誤りはウィキペディアには誤った記述、誤った知識、誤った情報があることを自覚しないことだ。丸ごと信じてしまう。ウィキペディアの正しい利用方法は、関連した情報に誘導してもらうことである。
本書では、ウィキペディアの成り立ちや舞台裏、さらに利用する上での注意点、有効な活用のノウハウなどを詳述している。インターネット社会をより賢く生きていくためのノウハウをのぞき見るだけでも価値のある本である。