業界関係者には急速に成長する「SaaS市場」はどういうものなのか、気になるところである。在来のASPとはどこが違うのか。ソフトウェアベンダーとしてはSaaSビジネスに参加するにはどうしたら良いのか。SaaSビジネスで勝ち抜くためにはどのような技術を取り込んでゆけばよいのか。
こうしたもろもろの疑問に、ASPからSaaSへの発展段階を実際にビジネス推進者として体験してきた著者が答えを提供している。体裁はSaaS事典のような形だが、筆者の関心は実践的なところにあるようだ。
著者の本職は精密機械メーカー、リコーの「シニアエキスパート」だが、本職以上に、ネットワークを基本にしたビジネス構築の推進者として業界団体をリードしてきている。筆者(編集長)が著者の津田氏と仕事を一緒にしたのは、ASPアワード(ASP・ITCアウトソーシング・アワード)の審査委員長を依頼された時である。一時、ASPビジネス自体が下火になったのを憂えて、ASP再燃の兆しが出てきた06年春先から、ASPビジネスの振興に情熱を燃やした著者は、数々のアイデアを筆者のところに持ち込んで協力を要請してきた。その過程で蓄積してきた知識と思いがこの本には詰まっている。
数ある要請の中で、結局、筆者は「アワード」の審査委員長だけを引き受けた。
著者はアワードが軌道に乗ると、さらにASP・SaaS事業者のサービスがユーザーから信頼できるかどうか、事業者に開示する「ガイドライン」の策定に情熱を傾けた。ガイドラインは現在、4回の審査会を経て、約40のサービスが認定を受けている。これらも著者の功績が大である。
さらに筆者が強い関心を見せているのは、ASP・SaaS事業者が安心して預けられるデータセンターの評価と構築の指針作りである。データセンターはバックアップ用に遠隔地に構築する必要がある。編集長である筆者は、沖縄をアジアの地政学的な優位からみても最適地として主張しているが、北海道出身の著者は冷却用の電力消費が少なくて済む北海道を最適地として検討を進めている。どちらも優位があるので、北海道、沖縄それぞれがデータセンター基地を建設してゆけば良いと思うが、それにしても著者の関心が進化してゆくスピードと強烈さには、驚かされる。