2008年11月7日
主催:日本コンバース
場所:東京・品川・東京コンファレンスセンター品川
講師:MM総研代表取締役所長 中島 洋
日本の通信業界に様々なシステムを提供する米コンバースの日本法人の年次セミナーである。ポイントは既存メディアがインターネットをベースにしたネットメディアに追い詰められてゆくシナリオがおぼろげながら見え始めた、というところにある。次のメディアの主役となるのはだれか。通信産業も、その主役の座を占める可能性はあるのか。仮に、主役は無理にしても、その主役交代の中で新しくも巨大なビジネスチャンスがあるのではない。それを日本市場を中心にながめてみた。
通信市場に隣接するメディア産業は通信基盤の変化によって起こされた「広告」を軸に激変期を迎えつつある。通信市場に起きている大きな構造変化は、電気や光のデジタル信号による情報伝達の飛躍的な効率向上によって、周辺メディアを激変の渦に巻き込んだ。米国では、新聞を軸にしているトリビューン社の破綻に見られるように、すでにインターネットによる変化、さらにP2Pを軸にした既存メディアの崩壊、いわば、「メルトダウン」が起き始めている。特に今年は北京五輪の年で、お祭り騒ぎのテレビやマスコミはかなりの広告収入増が期待されたが、それ以上の広告の伸び悩みに見舞われて軒並み広告費が減少してきた。これは米国のサブプライムローン破綻に端を発する金融危機に伴う不況だけのせいではない。実は4、5年前にこの傾向は始まっていた。インターネットやケータイへの広告費支出が増大するに連れて、ラジオ、雑誌と広告費収入は減少し、ネット広告に追い抜かれた。新聞もここ数年は連続で前年比10%の減少で、1兆円を大きく割り込み、7000億円台に落ち込んでいる。
広告費収入の落ち込みはマスコミの経営を直撃する。既存メディアは広告効果が把握しにくかったが、ネットメディアは広告の効果がかなり正確にわかる。それが既存メディアからネットメディアに広告がシフトしている理由だ。構造的な変換なのである。そこへ不況が直撃して、既存メディアでは広告費収入の減収が加速化したである。新聞社は収入の半分は広告から、民間放送テレビはほとんどの収入を広告に依存しているので、この減少は経営を危うくする。
さらに、もう一つ、大きな動きが既存メディアを震え上がらせることになるだろう。それは、トヨタが自社ポータルサイトで、広告情報を流し、既存メディアや新興ネットメディアへの広告出稿を大幅に削減するというのである。インターネットはだれもが情報を発信できるメディアであるが、ついに大手スポンサーまでもが、既存メディアに取って代わって情報発信源になろうとしている。トヨタ以外に、ブランド力のある企業が自社サイトでの広告配信を始めれば、既存メディアの広告収入はいよいよ落ち込むことになる。
読者や視聴者の減少によって起こるよりも早く、広告収入の落ち込みによって、既存メディアの衰退が始まる。この講演では、こうした新しい事態は、通信インフラの充実によってさらに加速される。通信インフラをになう事業者は、既存メディアや新たなインターネットビジネスだけを注目するのではなく、大手企業の「メディア進出」へのサポートも準備する必要があるだろう。