2009年2月20日
主催:独立行政法人 情報通信研究機構(NICT)
場所:東京・飯田橋 ベルサール飯田橋 1Fホール
基調講演・講師:MM総研所長・国際大学教授 中島 洋
ICT分野のベンチャー経営者や起業を目指すビジネスマン、若者のためのセミナーである。成長力ある企業を探すベンチャーキャピタルや証券アナリストたちも詰めかけて、会場は満員盛況の大賑わいだった。基調講演の後には、実際にICT分野で急成長している3つのベンチャーの事業発表会があり、その期待が高揚しているところだった。
基調講演は、そうした過熱したベンチャーの行き過ぎに警鐘を鳴らすところから始めた。この2、3年、ICT分野のベンチャーで株式公開したあと、すぐに売り上げが落ちて破綻してしまうベンチャー企業が相次いだ。そのために市場
に不信を与えて、昨年秋のグリーの株式公開まで、なかなか有力企業の株式公開が成功しなかった。
その理由は3つあった。
まず、上場時期の背伸びである。上場前の一定期間に、次の時期の売り上げを前倒しにしてその時期の売り上げを増やして成長率を高く見せかける。本来は経費である人件費を圧縮してストックオプションなどで支給し、現在の経費を減らして利益を実際より多く見せかける。このために上場後に反動で売り上げが減少、利益も一気に反転する。我慢を重ねてきた社員も堪りかねて、上場後、緊張の糸が切れて、すぐに離反する。
2番目の例は上場で得た資金をベンチャー経営者は自分の個人的な資金と勘違いして、無駄に消費してしまうケースだ。入手した資金目当てに、内外多数の人が群がってお世辞を使う。舞い上がって、あちこちの企業を買収して失敗するだけでなく、個人的に豪勢な生活を楽しんで費消してしまう。
最後はコンプライアンス無理解型である。循環取引などの不正な粉飾決算を、見つかりさえしなければ、と敢行してしまう。ところが、SOX法(金融商品取引法)の成立で不正経理が発覚すれば、経営陣だけでなく見逃した監査人も厳罰に処せられることになった。この結果、従来は経営陣に甘かった監査人のチェックの目が厳しくなった。疑わしいデータには徹底的に資料提出を求めて、それが納得ゆかなければ、監査人としての決算書の承認を拒否する。その結果、破綻する。
10年で100倍、情報処理能力が向上するムーアの法則、10年間で1000倍の情報伝達能力が向上するビル・ジョーイの法則は当分、実現してゆく。その結果、次々と現れる新技術によって市場は発展し、分解してどんどん新しい市場が生まれてくる。背伸びしなくても、粉飾をしなくても、成長するチャンスは無限に近くある。前車の覆った轍の跡をよく見て、失敗することなく、ぜひ、正当な方法で市場をつかみ、歴史に残る企業を育ててもらいたい、ということを切望して、講演を終わった。