本能寺の変 427年目の真実
2009年3月18日 刊行
明智 憲三郎 著
BPIAメルマガに歴史書を推薦するのも場違いな感じがするが、実は、著者は元々三菱電機で情報システム技術者として活躍した「工学系」の思考の持ち主で、この本の記述はシステム的な思考で貫かれている。情報システム分野で鍛えた思考は、歴史に新しい光を当てる可能性があることを提起してくれた。その背景には、著者が明智光秀の子孫で、歴史の中で「逆賊」として扱われてきた光秀の汚名を注ぐために、情熱に駆られて「本能寺の変」の真実に取り組んだという事情がある。
著者は、本能寺の変にまつわる7つの不自然な事柄に「謎」として疑問を明示する。光秀が歴史物語で言われるような「個人的な恨み」で本当に、一族郎党を危うくするような謀反を起こしたのか。なぜ信長は無警戒にわずかな手勢で本能寺に宿泊したのか。家康は本能寺の変の直前、なぜ、無警戒に安土城で信長の招宴に応じたのか、本能寺の変の直後に秀吉はなぜ歴史に残る「中国大返し」で近畿に戻り、山崎の合戦で光秀を打ち破ったのか、などの疑問である。一つ一つ、言われてみれば不可解なことだが、歴史物語ではすんなりと語られてきた。
著者はこれらの疑問をこれまで見逃されてきた資料の再評価を試みながら、見事に従来の歴史の常識を覆してゆく。結論は、直接、本に当たって欲しいが、誤解され、無念の思いの祖先の恨みを晴らすには十分な論証で、明智光秀像ががらりと変わったのを実感する。
私事で恐縮だが、著者の明智君は筆者の中学時代の同期生。ちなみに宇宙飛行士の夫で有名な向井万起男君も同期生で、アマゾンでは、「この本を買った人はこの本も買っています」というリコメンデーションに2人の本が並ぶので、両方とも中学の同窓生たちには人気の本のようだ。
技術開発で鍛えたシステム思考を駆使すれば、歴史にも新たな光が当てられる。定年でリタイアするシステム技術者もこれからは大量に出てくるが、第二の人生をぜひともこうした新しいジャンルに振り向け、エネルギーを注いでもらいものである。