鈴木宗男著
講談社+α文庫 838円+消費税
発行2010年4月20日
この欄で紹介するには異質の本だが、現在起きている社会現象を理解するための背景を知るうえでは重要な本だと思うので、あえて取り上げる。
政治家、鈴木宗男氏がいかにして罠にはめられ、それと抵抗して政治活動を続けているか、本人の告発によってつづられた本である。この本の通りなら、著者が指摘しているように、だれでもが刑務所に放り込まれる危険性があることを感じさせる。
鈴木氏は前面に立ちふさがった検察の裏側に別の「意志」を垣間見ているが、検察も簡単に外部の勢力に動かされるわけでもないだろうから、この本を読み終わった段階でも裏側にある「意志」の正体は明確になったとはいえない。そ
れが「国家意思」と言えるような代物ではなく、単に外務省の幹部職員たちの利権保護だけの利己的な目的に過ぎないかもしれない。しかし、その利己的な目的が、本来あるべき国家的目的を見失わせ、深刻な国家的損失、国益を損なう結果にならないか、寒い限りである。その利己的目的のために国家に有為な人材が排除されてゆくことになるとすれば、ゆゆしき事態である。本書では、ロシアとの国家的交渉、特に北方領土返還問題で画期的な成果を上げつつたった佐藤優外務省担当官が冤罪によって追い落とされ、北邦領土返還のプロセスを零に戻してしまったことは国家的な損失だったと、検察を指弾している。
また、そのプロセスでマスメディアが冤罪を推し進めた役割の重大性を具体的に告発している。マスコミ報道の実態を報道される側の当事者の立場から極めて説得力をもって暴露している。マスコミ関係者として肝に銘ずるべきことだ。特にマスコミが築き上げた虚像に「世論」が振り回され、事実とのかい離は一層大きくなってゆく。
IT分野でも、マスコミが血祭りにあげて刑務所の中に追い込まれた事例はいくつもある。その中には、犯罪そのものである者、素行面からも摘発がやむを得ざるものもあるが、いくつかの冤罪も含まれていたに違いない。そういう視点から、日本のITの発展と阻害を再点検することが必要かもしれない。そうした視点も与えてくれる。
久しぶりに胸にこたえた。日本社会への重大な警告の書である。