編集長が推す「この一冊」
『Google問題の核心』
牧野二郎著
岩波書店 2,500円+消費税
発行:2010年6月25日
著者の牧野弁護士は、急進展するインターネット社会の法制度上の問題点を摘出し、その解決案を積極的に提案する新時代のリーダーの一人である。本書も、ネットワーク社会を変容させつつある新しい問題としてGoogleに焦点を当てる。その問題を論じつつ、あるべき検索エンジンの未来を著者の角度から明らかにしてゆく。
本書は、まず、Googleが急成長した背景を広範に考察した上で、すでに直面しつつある重大な壁を指摘する。Googleの限界を画する壁は4つある。
インターネット検索に慣れてしまったユーザーには、Googleを通じて世界中のあらゆる情報にアクセスできている錯覚にとらわれる。しかし、当然のことだが、検索可能なのはWeb化されていない情報は検索エンジンによって集めることはできない。また収集する方法の限界もある。GoogleのエンジンはWeb情報のリンクを伝って次々と求める情報を集めてゆくが、リンクされていない情報にはアクセスできない。リンクを伝って次から次へと移動することによって、どのサイトにはどれだけのリンクが張られているかを把握して、多くのリンクが張られているサイトは信頼されて、評価も高いと判断することもしている。しかし、この構造は客観的で正確かと言うと、決してそうではなく、リンクが張られていないところには到達できないという機能的限界を有するのである。
第3に、同様の問題だが、検索できない深層Webの存在である。たとえば、動的に動くフラッシュなどで動くページは検索できないし、パスワードが必要なWebページは検索できない。最後の限界が情報の大爆発である。検索エンジンの能力拡大よりも情報の増加量の方が圧倒的に大きいのである。
にもかかわらず、Googleがあたかも中立で公正な情報評価を行う「民主的」仕組みを確立したと錯覚されている。
著者はこうした限界を超えた新しい検索システムが必要である、と具体的な提案を行っている。そのためのキーワードは「戦略的な分離化政策」と「水平展開」である。検索システム分野では圧倒的に出遅れてしまった日本社会への提案である。