■ 編者:国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
■ 出版:NTT出版
■ 発行日:2010年12月9日
■ 定価:3,750円
国際大学グローコム(グローバル・コミュニケーション・センター)研究者による情報通信政策の研究書である。しかし、学術論文集ではなく、現在、日本や各国が直面している情報社会の問題、情報通信政策の問題を、わかりやすく取り上げた概説書である。久しぶりに情報社会の現状を概観できる啓蒙書が発行された。
筆者も、この本の中でクラウドについて概説しているが、何よりも注目は、グローコムで育ちつつある若手研究者たちの海外報告である。米国、欧州、とりわけデンマーク、中国、台湾、シンガポール、オーストラリアなどの実地調査レポートが、なんといっても圧巻である。グローコムの最新の研究活動の一端がのぞける。まだ、「情報通信」では注目されていなかった時期からグローコムは定型的に中国など東アジアに実地調査を行ってきたが、東アジア経済の急成長が世界経済を動かすようになった現在、それらの研究の蓄積が光を放つようになってきた。
もう一つ、グローコムが「研究者たちの活動プラットフォーム」を標榜して、情報通信分野の研究者やジャーナリストと協力している成果を反映して、日本経済新聞社の関口和一論説委員、慶應義塾大学の田中辰雄准教授、同土屋大洋准教授ら、グローコムの客員研究員やフェローをしている外部執筆陣の力作が並んでいることも注目点である。
「グローバル時代の情報通信産業と政府の役割」「ICT利用先進国デンマークに学ぶ――行政、医療、教育の情報化」「情報モラル教育からデジタル・シティズンシップ教育へ」「子供に携帯を保有させるべきか――6カ国国際比較からの示唆」「ネットワーク中立性における共同規制の役割」「次世代ブロードバンド・アクセス網――フランス・ドイツ・オランダからの示唆」「全国ブロードバンド網に反映されるオーストラリアの通信自由化10年のジレンマ」「情報通信政策と政府の関係――台湾の独立行政委員会・電波オークション・国際競争力強化から考える」「クラウドコンピューティングを超えて――その上でどのようなビジネスを構築するか」「アジアのオープンリージョナル化と情報通信産業――グローバル時代の産業政策には何が求められるのか」「電子書籍と国際標準化」「インターネットの未来」この本に詰め込まれた内容を並べただけでも、現代が直面している課題の諸相を知ることができる。