著者:武田隆 エイベック研究所代表取締役
出版:ダイヤモンド社 1800円+税
発行日:2011年7月28日
著者は大学時代にインターネットの新しいコミュニティの仕組みを創ろうと起業した学生ベンチャーだった。「だった」としたのは、すでに創立10余年を経ているからである。学生時代のゼミで、学校事務当局の目を盗んで、教師が初期のインターネットに触れる経験をさせてくれた。その時はあまり事の本質を理解できずに漠然と受け入れていたものが、時を経ずして驚きに変わり、新しい時代の到来を予感するようになる。
インターネットの発展とともに歩んできた世代の現場の体験をつづった本の一つとして読んでも、なるほど、自分が見てきたインターネットと、随分、違うインターネットの発展史があるのだなと、感心しながら読み進められる。
筆者は特に、現在、政治革命を引き起こすきっかけにもなっている「SNS」をインターネット以前からあった「パソコン通信」と本質的には同じ「コミュニケーション革命」ととらえている。人はコミュニティ、つまり、人と人とが情報交換をし、喜怒哀楽を共有する共感の場を求めている、ととらえ、その手法が多様化、高度化している、と見ている。著者の創業したエイベックス研究所は、インターネットを基礎に情報交換の場所、共感の場所を創造し、これを企業の新しいマーケティングツールに発展させてきた。著者のインターネット体験史を読むと、この企業が求めているビジョンもまた、はっきりわかる。
すでにベンチャーというには年輪を経た企業だが、学生時代に創業した著者はまだ、30代半ば。インターネットをはじめとした情報通信革命は次々と新しいビジネスを生み出してゆき、若者に社会で働く場所を提供している。歴史が古くて変化の遅い大企業にばかり訪問して「時代が悪くて就職先がない」と社会に苦情を言うのが今日の学生や大学当局の通例になっているが、時代の変化を感じるセンスを磨けば、社会に貢献し、仕事を創りだす機会は豊富にある、と実感した。