2009年度から11年度まで慶應大学大学院で行われたソニー寄附講座の連続公開シンポジウムでの講義を記録したものである。連続シンポジウムの根底に横たわる問題意識は、21世紀に入ってわれわれの社会や生活に大きな変化が起きたが、そのことを各分野の専門家に講演してもらい、さらに総合討論を行って、多様な科学研究の方面から総合的に人類や社会の向かうべき方向を考えようというものである。
科学・技術の発展がもたらした経済成長、グローバリズムの急速な進展、地球環境問題の顕在化、さらに昨年3月11日の出来事〜〜これらのことが21世紀に入ってからの大きな変化を引き起こす原動力になっているのではないか。しかも多くの問題が相互に複雑に関連して個別に問題を解決することが困難になっている。グローバルな視点とローカルな視点を同時にもって解決しなければならないように思う、と、この寄附講座を担当することになった所眞理雄特別研究教授は述べる。
「㈵」では、総計10回にわたるシンポジウムのうち、「これからの教育を考える」(第1回)「これからの医療と生物学」(第2回)「これからの地球環境と経済」(第3回)の3回のシンポジウムの記録を収録した。 第1回は「偶有性への適応」(講師:茂木健一郎氏)「要素の教育からシステム教育へ〜ビッグピクチャを描ける人材をいかに育成するか?」(前野隆司氏)、第2回は「がん治療薬開発の現状と課題」(小谷秀仁氏)「抗がん剤とシステムバイオロジー」(北野宏明氏)「がん幹細胞」(須田年生氏)、第3回は「成長幻想を捨て、3Eトリレンマに挑戦する大人の社会を」(高安秀樹氏)「真の持続可能性とは〜数理物理学者が考える地球と人類の将来」(西成活裕氏)「21世紀環境立国戦略」(細田衛士氏)
科学・技術が向かうべき方向はどこか。それは人類や社会を幸せにしてくれるのか。その根本的な問いを考えるのに、シンポジウムに参加することを逃したことは残念だが、本書で、それを考えてみたい。