「サイバー・テロ 日本vs.中国」
2012年09月30日
■■ 「サイバー・テロ 日本vs.中国」
■ 著者:土屋大洋慶應義塾大学教授
■ 出版:文春新書
■ 発行日:2012年月9月20日
著者の土屋氏は気鋭の国際政治学者である。現在は慶應大学SFCの教授だが、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター助教授の時代には、筆者の同僚で、インターネットの勃興期からその知識は深く、政治学者でネットワーク社会を深いレベルから理解しているのは著者が第一人者だろう。そういう意味でも、ネットワーク時代の新しい政治学者と評価することができるだろう。
もちろん、サイバー攻撃のリスクについても早くから警告してきた。今回は米国の「サイバー司令部」の新設、「ネット軍」を立ち上げた中国――と、さらに深刻化するサイバーを取り巻く状況を報告する。米国のサイバーセキュリティ、中国のサイバーセキュリティ、地球規模のサイバー防衛と政府の動きを点検しながら、インターネットの特色である民間のネットパワーに焦点を当てた「民兵と傭兵の時代」を論じ、それを踏まえた日本のサイバーセキュリティの状況と問題点を摘出している。
サイバー攻撃にもさまざまな攻撃主がいるが、日本社会を脅かしている国家レベルでの最大のプレーヤーは中国である。尖閣問題にからんで中国の反日運動についての裏側でネットワークを通じたオピニオン操作があると感じられる中で、さらに、国境を越えた攻撃を加えてくる「ネット軍」の存在はとりわけ注目される。日本の国家的危機を感じさせる時代を背景として、時宜を得た著書である。ネットワーク関係者の必読の書である。