祝・日本経済新聞の現地印刷

祝・日本経済新聞の現地印刷

 この11月から、沖縄県の有力地方紙、琉球新報社に委託して日本経済新聞の現地印刷が始まる。沖縄県の経済界の強い要請もあったのだが、もっと大きかったのは最近、急速に増大しつつある沖縄県への進出企業の経営トップからの強い要望である。

 昨年の正月、東京・大手町の日経ホールで沖縄県と日経新聞共催による沖縄県への「IT企業誘致セミナー」が開かれた。前年末に県知事に就任したばかりの仲井眞弘多知事の東京デビューの場でもあった。知事がセミナー冒頭に県代表として挨拶したが、その直前、打合せを兼ねて、セミナー講師たちと一緒に昼食をとった。その席上、沖縄にDR(ディザスタ・リカバリー)用のデータセンター建設計画を進めている安藤証券の安藤敏行社長が仲井眞知事に苦言を呈した。「沖縄に進出したい企業も沢山あるかもしれないが、日経新聞の朝刊が朝読めないのでは躊躇しますね」というのである。

 現時点では、内地の全国紙は内地の印刷所で印刷した後、飛行機で那覇に運ぶ。一番機に乗せても、那覇に着くのは8時過ぎ、9時過ぎ。朝刊と一緒に配達するのは不可能である。宅配は夕刊と一緒になる。それで、沖縄県での日経の販売部数は3000部と言われる。日経新聞を東京や大阪、名古屋、福岡など、主要地域、全国他の地域よりずっと遅れて、夕刊と一緒の時刻では、沖縄駐在者の情報感度は鈍くなるし、ビジネスは出遅れる。安藤社長は「日経に現地印刷してもらわないと、誘致セミナーを一生懸命やっても、成果を挙げるのは苦労ですよ」と付け加えた。

 仲井眞社長はこの話を聞いた後、昼食を中座して、階下にあった日経新聞社長室に出向いて、当時の杉田亮毅日経新聞社長に表敬訪問に出向いた。「沖縄現地印刷を断固、要請してくる」と。上気して席に帰って来た仲井眞知事は「杉田社長は沖縄印刷について前向きの答えをくれた」とわれわれセミナー講師陣に交渉結果(?)を報告してくれた。

 それから1年余、今年3月、杉田社長は会長に就任する直前、社長としての最後の決定として沖縄現地印刷を決めた。3000部ではまったく採算にのらないが、全国の主要都市で日経新聞の朝刊を読めるようにするのが日経経営陣の責務である。仲井眞知事、それを促した安藤社長にも御礼を申し上げたい。(安藤証券のインターネットによるサービスは「美らねっと24」と沖縄にちなんだネーミングである。一度、ご覧あれ)

 沖縄進出企業の経営者や幹部だけではない。出張者にとっても日経新聞の朝刊が朝、読めないというのは、大きなストレスだった。これからはホテルでも日経新聞朝刊を朝から置いてくれるようになるだろう。日経が読めるということで進出企業の背中を押す大きな後押しの力になるかもしれない。

 日経新聞の現地印刷の採算点は少なくとも7000部の販売が必要と言われる。ハードルは高いが、朝刊が朝、配達される、ということで、ホテルの需要も増えるだろう。内地からの企業進出が増加すれば部数も上積みされるだろう。つまり、沖縄の経済・産業が発展して内地からの転勤者、出張者が増して行けば、経済紙の朝刊需要が増加する。日経の日経新聞の沖縄現地印刷が赤字を脱出する時期が到来するのはいつだろうか。その時期が来れば、沖縄経済は立派に「独り立ち」したと言えるのだろう。

ともあれ、「祝・日経新聞沖縄現地印刷。

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