全国紙では日本経済新聞が数行で報道しただけだが、グローバルな情報ネットワークを考える上で重要なニュースが先週、沖縄の産業界を駆け巡った。
クレジットカード決済のデータ処理で世界最大級の米トータル・システム・サービス・インク(TSYS=ティーシス)が沖縄にデータセンターを開設した、というニュースである。TSYSはVISAやマスターカードなどの国際的なクレジットカードなどの決済業務を手がけている。沖縄は日本企業や行政府のバックアップ用データセンター配置の好適地として注目されてきたが、欧米アジアに情報ネットワークを張り巡らせるグローバル企業にとってもデータセンターを置く地域として注目を浴び始めたようだ。
TSYSは名護市のマルチメディア2号館で、旧ビックニイウスが運営していたデータセンターを継承、拡大強化することで、運用開始までの時間短縮も図った。
TSYSの日本法人、ティーシス・ジャパンの近藤均社長は「アジアの中心近くに位置するとともに日本である、という沖縄の特性から決めた」と述べているが、関係者の話を総合すると、当初、アジアのセンターとしては中国・上海を検討していたようである。その案を一転して沖縄に切り換えたのは何故だろうか。
近藤社長は直接にその理由には触れていないが、これまで沖縄に情報センターを開設した多くの企業の声を聴くと、沖縄が日本国内で「日本の法律が厳格に適用される」という点にあったのではないか。現時点では、急速に経済は発展しているとはいえ、中国のビジネスモラルは世界の先進国に比べてその水準には達しているとは言いがたい。顧客情報が集中する情報センターを厳格なビジネスモラルや法制度の整備されていない中国に持って行って大丈夫なのか。その懸念は、一度、中国に情報処理機能を移した企業には共通のものである。中国に依存できるものとそうでないものが、まだ厳然と存在しているようである。
そうしたセキュリティの観点で検討すると、厳格な日本の法律が適用される地域で相対的に生活費・給与水準が低くて済む沖縄は、コスト的に引き合う地域となる。さらにグローバル企業にとっては沖縄は日本の一部であるとともに中国、台湾、フィリピン、インドネシア、ベトナム、タイ、シンガポールにも開かれた特別な地域であるという利点も見逃せない。
すでに米シティグループがBPOセンターを沖縄で建設中であるほか、アジアをにらんでIBMも沖縄に大規模なBPO拠点を配置している。
世界の情報ネットワークの結節点の一つとして、沖縄は重要な地政学的な位置を占めていることが証明されつつあるようである。日本企業もアジアの拠点として基盤を確保することを望みたい。