沖縄県が今後の情報産業を集積する拠点として県中部のうるま市で建設を進めている「IT津梁(しんりょう)パーク」が4月にいよいよ開業するが、経済界の逆風の中、予想外に順調に動き始めそうだ。今後は、いち早く経済が復活するとみられるアジアに最も近い日本の最西端に位置して、沖縄がその進出最前線の拠点としても注目されるだろう。世界の不況の大津波が沖縄にも到達し始めたか、と、一時期は思ったが、ここ1、2週間の筆者の身の回りのビジネス活動の流れをみていると、日本全体の経済の流れとは距離を置いて、沖縄産業界は最も早く底を脱して、復活する可能性がある。
筆者は「IT津梁パーク」検討委員会の座長を務めた責任者である。一時期、米国サブプライムローンの破たんに端を発した世界同時不況のあおりをうけるのではないかと、計画の進行を懸念した。実際、昨年秋には、産業界全体的に慎重姿勢がみられて計画の進行にブレーキがかかったかに思われたが、その後、進めるべき計画と見直すべき計画の見極めがつき始めた企業を中心に、前向きに進出計画を検討するところが出始めている。
4月に完成する予定の第一号棟はすでに満杯、次年度建設予定の棟の入居に関心は移っている。さすがに丸ごと一棟を建設する計画はしばらく慎重になっているものの、立地のコストや人件費などの有利さから、厳しい事業環境ゆえにこそ、新拠点として沖縄で事業の検討を始める機運が芽生えているのである。さらに、沖縄のロケーションである。沖縄県は、世界金融危機以後の経済・産業、また消費市場の中心として発展が期待される東アジアの中心に突き出した位置にある。中国、台湾、ベトナム、フィリピン、インドネシアなど、アジアに最も近い日本の県が沖縄である。
日本企業がこれらの諸国地域に事業展開する際に、進出の最前線の指令基地にする企業が出始めている。世界経済はアジアから立ち直るとみられているが、その際に沖縄にセンターがあれば都合が良い。セキュリティや個人情報保護など、アジアでは最も厳しい日本の法律が通じる最西端の地域である。また、飛行機の移動などでも、内地の主要都市に比べて2時間は短い。
その上に暮らしやすさである。沖縄に赴任したビジネスマンはその魅力に取りつかれて任期の延長を申請するケースもある。家族連れで転勤して任期終了後、家族だけは残留して「逆単身赴任」となるケースもある。「花粉症」がない、など、残留を希望する理由もある。
生産基地だけではなく、市場としてのアジア地域の成長を考慮すると、日本産業界も「アジアシフト」をにらんだ国内の事業拠点の再配置を検討する機運が盛り上がってくるだろう。その際、沖縄に事業拠点を設けようという動きはさらに顕著になってくる。IT津梁パークへの関心はその前兆ではないか。日本の経済復興はアジアに直結する沖縄から始まるかもしれない。