沖縄の有力産業は、観光関連を除くと、泡盛などの食品や農水産業、健康関連などあまり目立ったものがない。ここ10年、県が必死に育成しようとしたのがITをベースにした新しい企業の育成である。周知のように誘致に成功したのがコールセンターである。通信料金が劇的に安くなったために、遠隔地である沖縄の不利はほとんどなくなった。沖縄の人件費の安さを武器に労働集約産業であるコールセンターはこの10年間で100社を超える内地企業が沖縄に拠点を設立した。
ただし、人件費の安さだけでは、他にもっと賃金が安いところが出てくれば引っ越しされてしまう。コールセンターを高度化してBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)への移行を図るところもある。しかし、本命はソフトウェア開発の産業を興すことが企図されていた。しかし、沖縄独自のソフトウェア産業は育たず、本来の意味の情報産業育成には頭を抱えているのが実態だ。
ところが、昨年来、全国で注目されている企業が沖縄にあることに気付いた。ジャスミンソフト(贄=にえ=良則社長)である。沖縄県中部のうるま市の産業支援施設に本拠を構えて、従業員数は10人を超える程度だが、そのノープログラミングのソフトウェア「Wagby」が注目されているのである。
その社名が出たのは、筆者が主査になっている大手企業のCIOの勉強会の席である。生産性の高い開発ツールの動向が話題になった際、講師が、3つの製品の名前を挙げ、その一つとしてジャスミンソフトの名前が挙がったのである。沖縄の経営者たちの勉強会などでジャスミンソフトの贄社長とは面識があった。しかし、製品の中身までは不勉強で知らなかった。どこかで聞いた名前だと頭を巡らせて、はたと沖縄のジャスミンソフトだ、と思い当たった。
「Wagby」は「Web 対応の業務システムを完全自動生成する」と銘打ったである。WAGはウェブ・アプリケーション・ジェネレーションの頭文字だそうだ。仕様書から Web 対応の業務システムを完全自動生成するのだが、仕様書の雛形を Excel で提供するのが特色だ。テーブル構成、画面レイアウト、権限設定といった基本設計情報を記入していくと、仕様書からWagbyが必要なソースコードをすべて生成する仕組みである。HTML や JSP、JavaScriptなどを含み、開発者はノンプログラミングで完全に動作する業務システムを素早く作成できる。
5 年前にリリースして3カ月に1回程度、バージョンアップしているが、すでに、採用実績は250 案件を超えているそうだ。大手企業の部門内利用システムから中小企業の基幹システムまで業種を問わず採用されている。特に昨年の「定額給付金」の実施の際には、7つの自治体がWagbyを使って支援システムを開発したという。短期間に開発可能ということで採用され、2か月でシステムを実装できた事例もある。
まだ、利用しているユーザーは沖縄+αだが、今後はSaaSでの提供も準備中。そうなれば営業も簡略化して、沖縄にある不利は克服できる。遠隔地であることのデメリットを極小にするのがネットワーク社会であり、そのネットワークを基盤にしたソフトウェア企業が成長するのに不利は少ないはずだ。ジャスミンソフトの発展だけでなく、同様のアイデアいっぱいのソフト会社が沖縄から輩出することも期待したい。