尖閣問題は、米軍基地移転問題とともに、沖縄にとって、のどに突き刺さったやっかいな棘の1つである。
今回の中国側の強硬姿勢には、中国の次期政権をめぐる共産党内の主導権争いが激しくなって、現政権側も強硬な対日姿勢を取らなければ国内世論を引き付けられないのだ、という解説もあるが、これは甘い見方ではないか。本質的に尖閣諸島に対して中国が領土権を主張していることに帰着する。根の深い領土問題である。
歴史的には、領土問題は戦争か、巨額のお金を積んだ買収によってしか解決しなかった問題だ。尖閣諸島は水産資源、海底資源、ともに巨大な経済価値があるので、金銭的解決は非現実的だろうし、両国の国内世論がこれを許さないだろう。
後は戦争しか残されないのか。
米国の支配下にあった沖縄が平和的に日本に返還された例が唯一の歴史的例外だが、一度でも例外があるなら、今後も歴史的に初めての平和的な領土問題決着の事例を作れないか。可能であるどうかは心もとないが、判定を第三国や国際世論に委ねるのはどうか。政治を排除できるかどうかがキーになるが、国民感情を棚上げにした歴史的、学問的な検証である。
心配なのは中国の若者が、国家による教育によって、尖閣は中国の領土であると思い込んでいることである。今回の事件も中国の領土で漁をしていたところを日本の不当な攻撃によって逮捕された、というロジックで、日本からみた風景とは全く違った事態に見えているところだ。中国の南部の小学校を訪問した知人は、「中国の小学校の教科書には、台湾省として台湾が中国領土として記述されているのはもちろん、沖縄も琉球省として中国の領土とされていた」と驚愕して帰ってきた。筆者が直接に確認したわけではないので、軽率には言えないが、もしそんなことがあれば、ゆゆしき事態である。
歴史的には、琉球は明や清に朝貢しているが、これは中国の領土ではなく、支配権にあるとはいえ、外国だから「朝貢した」のであって、領土ではなかった証拠である。これは国際関係の問題であって、国交断絶したり、友好国になったりの関係の変化は時代とともにあった。朝貢していたのだから中国の領土だ、という発想は、冷静な学問的議論では、明快に排除されるのが国際常識だろう。
こうした冷静な議論の後に領土問題を確定する。これが可能かどうかは、また、政治の問題になってしまうのが、この紛争のやっかいなところだが、粘り強く、学問的な議論を第三国も交えた場所で繰り広げる必要があるだろう。