琉球王国は中国の領土ではなかった ~「中国領土論」の大いなる誤解に警戒が必要~

琉球王国は中国の領土ではなかった ~「中国領土論」の大いなる誤解に警戒が必要~

 石原都知事の「尖閣諸島の東京都購入案」発言で大いに議論が起きているが、これに関連して、少しぞっとする話を思い出した。中国からの日本企業誘致使節団に同席した日本人経営者の話である。この企業は20年近く前に中国に工場を建設し、この経営者の中国生活も20年以上になるとのことだったが、筆者が「美ら島沖縄大使」の名刺を渡すと、「琉球王国も昔は中国領土だったし、沖縄ともうまくやれると思いますよ」との発言に腰が抜けるほどに驚いた。

 もちろん、琉球王国は、明治5年に琉球藩として日本に帰属するまで、どの国の領土になったこともなかった。明、清から「琉球王」の称号を受けたが、これは「領土」とは無縁である。古く、中国は当時の日本の支配者に「漢委奴国王印」を贈ったが、だからといって日本は中国の領土になったわけではない。近隣諸国に対して中国の王朝は臣下の礼を取る国の支配者に対して「王」の称号を与えたが、「領土」の意味ではない。「領土」とするならば、厳しく税を取り立てる経済的支配、外国との交渉や侵略者を領土から排除する外交・軍事的支配は必須だが、そうした歴史的事実は全く存在しない。

 にもかかわらず、中国に長期滞在する日本人企業家は「琉球王国はかつて中国領土だった」と確信しているのである。もちろん、日本にはそういう認識はないので、中国社会での認識を受けて、この企業家が誤解して信じ込んでいるのではないか。

 あえて言及すれば、琉球の日本帰属に反対した琉球王政府の一部の勢力が、「沖縄の独立を維持する」目的で、日本の動きをけん制するために清に救援を求めたことがある(琉球救国運動)。これに乗じて清は「沖縄本島を日本、先島(宮古・八重山)を清領に帰属させる」分割案を提起したことがあるが、これには中国に亡命していた救国勢力は猛反発し、この案はとん挫した。この際も、琉球王国の独立が前提で、その一部でも中国の領土になることを拒否したのである。それ以前に中国領土だったことがないことはこれを以てしても明白だ。

 以前、中国の小学校の教科書では、沖縄は「琉球省」と書かれていると聞いて、大陸的な大ボラだと、冗談として笑い飛ばしたが、どうも、教科書の話は事実かも知れないと恐怖すら感じる。そうした全くの虚言を事実のように子供たちに教えているとしたら、「領土の回復」と主張して沖縄県に軍事力を行使してくることも懸念しなければならない。尖閣はその第一弾だとすれば、中国へ政府に対しては、まず、教科書の改訂から要求しなければならない。そもそも、こうした教科書の記載が事実なのかどうか、から、日本政府は事実関係を把握して欲しい。

 石原発言は尖閣問題にとどまらず、沖縄の安全保障の問題にまで議論を深めて考えなければいけない。

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