3月20日紙面掲載分 「勝つ工場 - 甦るメイド・イン・ジャパン」 |
産業構造改革の症例
新興産業と衰退する産業をどのような物差しで測るのか、いろいろのアイデアがあるが、この「ガイアの夜明け」のシリーズの中では、一度、プロ野球のオーナーの変遷で考えたことがある。歴史を振り返ってみると、プロ野球のオーナーは鉄道会社と映画産業、新聞社が中心だった時代がある。鉄道では、国鉄、近鉄、阪急、阪神、南海、のちに西武、映画産業では、大映、松竹、新聞社では毎日、読売、産経、中日がオーナーになった。阪神と読売はまだオーナーであり続けているが、今シーズンを眺めてみると、新たにソフトバンク、楽天というIT企業、それも歴史の浅い「ベンチャー」を卒業しかけの企業が名を連ねている。
ラグビー、バレー、バスケット、陸上、スキーやアイスホッケーなどの実業団のスポーツも産業、企業の栄枯盛衰を反映している。プロ野球では、直接に商品の宣伝に結びつく消費財関係、個人顧客に近いサービスが主役だが、実業団になると、最終消費財以外の業界として、繊維、鉄鋼業、重電機、事務機器、コンピューター産業などの社名もちらほらと目に付く。これも業績不振によって名門の実業団チームが消えてゆくが、丹念に歴史を追えば、日本の産業史の構造変化をあぶりだすことができるだろう。
90年代に姿を消したチームとしては、実業団ラグビーで全国優勝しながら、それを最後に解散した旧・神戸製鋼所などが印象に深い。名門、新日鉄釜石など、鉄鋼業界は実業団ラグビーの隆盛をになった。それが鉄鋼不況、日本の製造業の競争力低下の象徴のように実業団スポーツの世界からも姿が見えなくなった。
ところが、ここ1、2年の素材型製造業の復権は驚きである。鉄鋼業は生産量も回復し、企業の合併、合理化によって経営体質を強化したことも手伝って利益は空前の活況を呈しつつある。鉄鋼の生産が追いつかず、自動車業界では部品不足で操業に支障を来たすところまで差し迫っている。
この素材型製造業の回復ははたして本物か? 現在は巨大な中国経済の勃興に底上げされている一時的な活況か、という懐疑的な指摘もある。経済は循環、製造業は時代がひとつ進んだ新しい成長の坂道に入ったという強気な予測もある。いずれが正しい理屈かを判定するにはもう少し時間が必要だが、5年後、10年後、実業団スポーツの試合場がこういう産業分野の企業名であふれかえっていることを、とりあえず期待したい。