東京大学では2年生の半ばに3年から専攻する学部・学科を決めるが、そのうち工学部の志望者の変遷を聞く機会があって、正直に驚いた。
筆者も昭和43年に専門学部進学することで悩んだ身なのでよく覚えているが、そのころの工学部の人気学科は、都市工学、建築、電子・計測(コンピューター)、原子力がトップグループだったと記憶する。反対に人気がなかったのは冶金、機械などだったような気がする(間違っていたなら御免なさい)。繊維工学もすでに下り坂だったような気がする。その後、産業として勢いを失う造船学科も人気はいまひとつだったような気がする。産業としての可能性はなかったが、航空学科はまだ、志望者も多かったと思うので、産業としての未来だけではなく、志願者は夢を追っていたように思う。
ところが、最近の工学部の人気は様変わりらしい。
建築は相変わらずの人気らしいが、冶金は「マテリアル工学」として蘇り、また、機械学科はトップグループの人気に上昇しているらしい。その代わりに電子・計測は大きくランクを下げているらしい。解説者によると、10年前には想像できなかったが、現在の好況産業は鉄鋼、造船、自動車で、これがマテリアル工学や機械学科の人気を集めさせている理由らしい。逆に、電子・計測業界は当時を知るものからすれば「まさか」の不景気業種だ。コンピューター産業にいたっては、3Kやら6K、7Kといわれ、「就職したくない職種」の上位業界になった。
鉄鋼、造船、自動車、機械などは、広い産業のすそ野をもつ「ものづくり」の本拠地である。コンピューター産業に未来を託してきた人々にはショックだが、日本産業本来の強さは「ものづくり」にある、と主張する立場からは、これも、心強い現実でもある。昨今の動きを、筆者としては複雑な思いでウオッチしている。