安心・安全に対する厳格姿勢の表明
筆者が日本経済新聞記者として社会に出たのは1970年代前半。最初に配属された記者クラブは「貿易記者クラブ」で、総合商社、専門商社の企業活動をミクロとして取材しながら、マクロとしては日本の貿易自体をいろいろな角度から報道することに取り組んだ。その時代は日本と中国が平和条約を結んでいないので、日中貿易のパイプはまだ細く、年に数回の広州交易会で商談が開かれるのが注目の的だった。
そうした取材体験が頭にこびりついているので、今回の農産物輸入のデータを改めて見て、感慨を抱かざるを得ない。中国からの輸入品にとうもろこしや大豆を探したが、最近は見当たらない。別の資料に当たると、とうもろこしや大豆は中国自体が輸出国から輸入国に転換したのだそうだ。経済発展の過程で、需要が拡大したらしい。石油もその当時は中国の輸出商品だったが、経済発展、モータリゼーションの進展と需要が拡大して、いまや輸入大国である。
さて、今回の中国食品のショックである。
すでに数年前から中国食品の安全性にはいろいろの風評が流れていた。事実関係は分からないので、そういう風評があったということだけで例示するのは真面目に対応策を整備している中国の食品輸出企業には失礼に当たるだろう。ただ、どの企業が真面目に取り組み、逆にどの企業が不十分であるか区別がつかないので、とりあえず、日本の消費者がどういうところに不安を感じているか、指摘しておくのも意味があるだろう。
最もうわさに上るのが、やはり残留農薬である。日本では使用が許されていない農薬が最近まで中国で使われていたため、中国に進出した日本企業が中国農産物を原料とする加工食品や飲料を日本市場に投入する計画が頓挫した、などの風評である。こうしたうわさがインターネットで大量に流通しているが、それは一部の例外で、大半は中国側を指導しながら日本基準に合わせて栽培や原料としての採用をしていると思う。
今回の事件も、こうした風評の基盤の上に起きたので、一気に燃え上がってしまった。しかし、日本消費者の安全・安心に対する厳格さをアピールするのに、やりすぎるということはないだろう。