マネー動乱第3幕 世界金融危機の真相

マネー動乱第3幕 世界金融危機の真相

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金融危機は波動の一つか

 超楽観論に立つと経済は波動を繰り返しているので、現在の危機もいいずれは克服されて経済成長が再び始まる。それならば、なぜ、危機が世界の深刻な問題として各国の首脳が集まって解決策を模索することになるのか。放置していても、そのうちに自律的に回復するのではないか。なぜ、ここまで大騒ぎするのか。

 この疑問への答案はいくつか考えられる。

 1つは、債務過多の連鎖で多数の金融機関が破綻して混乱が続くと、物と物、物とサービスの交換を媒介してきたお金の流れが滞って物と物、物とサービスの交換で成り立ってきた経済体系が機能不全に陥ってしまう。いずれ回復するにしても、その混乱の時期に物が一方で余剰のまま品質劣化し、サービスは在庫できないので価値を実現することができないまま時間を空費して機会損失が拡大する。その一方で物を調達できずに飢え死にサービスを受けられずに困難に直面する需要家が累をなす。

 低迷期間が長引くとその間に生命の危険を含む経済被害者が続出するのを止められないということである。つぶれる会社も沢山出てくる。逆に新たに誕生して成長する企業も出て経済構造、産業構造は大きく変わるだろう。人間の活力、経済の活力とはそういうものだろうが、つぶれる企業、餓死する人びとに焦点を合わせれば、確かに、いずれ回復するにしても長期の低迷は回避しなければならない。

 2つ目は、谷間である低迷期が長いとその間に質的な構造変化が起きて、経済破綻以前にメリットを享受してきた「勝ち組」が復帰できなくなる。それを防ぎたい。あるいは、破綻の原因を解明してそれを排除することになっても「勝ち組」復帰のチャンスがなくなる。そのために短期間で既存構造を維持するための対策を必死になっているという見方である。米国経済を立て直すために「日本の資産を投入してでも米国債を買え」というような議論である。世界は今回の経済混乱は米国一極集中経済体制の終焉だとみて、米国市場支配集団の利益のための道具であった「国際標準(グローバルスタンダード)」を見直すという動きが起こっている。これは、米国市場支配集団が標榜した「市場原理主義」「株主優先主義」「企業利益本位主義」の終焉を意味している。世界の多くの経済リーダーはこの米国標準に汚染されているので、いまさら方向転換をさせられては立つ瀬がない。いわば革命が起きているのである。

 現在の混迷から必ず自律的に世界経済は立ち直る。しかし、そのときにはこれまで支配的だったルールは変わる。

 今回の取材を通じて、世界の経済は大きな歴史的な転換点に立った、と実感する。それは「賭博的」経済からの脱却ではないか、ということである。経済には循環があり、大きな循環期には、価値観を浄化してくれる。筆者は特定の信仰を持っていないが、「神は存在する」と思いたくなる瞬間である。

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