農業をハイテク産業に飛躍させる模索
筆者は日本経済新聞記者時代に3年間、農林水産省の記者クラブ詰め記者として活動した。1978年から81年までである。その後、編集デスクとしても農林行政の取材を指導したが、そのときは、日本経済、産業、世界経済、産業との枠組みを意識しての取材指示だった。いずれの時期も、為替変動が激しく、国際競争力がそれによって大きく左右されるので、消え行く産業、アジア諸国との競合ではなく、海外企業との協力・事業分担によって切り抜けるために海外進出を試みる企業など、経済記者としては激しい変化の中で興味深いニュースの発掘と日本産業界の未来を考える機会を与えてもらった。
その間に得た確信は、日本農業は日本の先端技術と結合することによって生まれ変わることができる、というものだった。しかし、そうした夢のあるビジョンを具体化するシナリオを打ち出せないまま、日本農業は既存のイメージを改良、踏襲するのみで魅力ある未来像とは遥か遠いものだった。
にもかかわらず、全体からすればわずかとはいえ、農業に就く人口が増えている。力強い限りである。長い間、忘れていたが、シカゴ穀物相場の高騰で世界中に食料不足が叫ばれたときに、日本の食料自給率の低さ、食料安全保障の危機を痛感させられた。日本の農業政策は根本から見直されなくてはいけない。そのビジョンはいまだに示されていないし、政治の混乱の中では、とても腰を落ち着けて国民の合意を得られるような案を築く暇はないかもしれない。やや無力感を感じているところに、新規就農人口が実は、増加傾向にあるというのだから、きちんとした就農誘導策を講じれば、農業復活のチャンスは見えてくるように思える。
減反政策で、田地は収入の少ない作物を育てる畑作に変えられるか、あるいは何もしないまま放棄するか、農家に対して厳しい政策が長年、継続してきたため、遊休農地が溢れかえっている。欲しいのは労働力と意欲である。それも、情報通信技術、センサー技術、遺伝子技術などが発達してきた中で、これらを活用すれば、新しい農業を生み出せるはずである。そうした可能性を感じさせる新規就農の増加だった。