世の中に新しい価値を提供した「名経営者」は多かれ、少なかれ、常識を超えた「超常識」の性格を備えていた。筆者の日本経済新聞記者時代の経験では、その中でも「変わり者」と言って良いような、付き合いづらい人と、超常識だが、実は、常識も豊かに備えている「超常識の常識人」との二つのタイプに分かれていたように感じている。現在、現役で活躍しておられる方はさておくとして、すでに引退された方について触れると、前者のタイプは任天堂の山内溥(やまうち ひろし)前社長やダイエーの中内功創業者、京セラの稲盛和夫創業者というところだろうか。
後者にはヤマト運輸の小倉昌男元社長、セコムの飯田亮創業者、ドトールコーヒーの鳥羽博道創業者らが思い出深い。前者後者とも、新しいビジネス分野に挑戦して大成功を収めた歴史に残る人物だが、前者と後者にはまったく違った人種であるように筆者には思われた。もちろん、個人的な感情を言えば、筆者は後者の方が好きだった。
後者の特色は、ビジネスについて譲れないところは決して譲らない頑固さを保持するが、それ以外の場面では柔軟で、幅広く人の意見を聴き、部下からも愛されていたことである。前者のグループでは、部下から恐れられてはいたが、愛されていたかどうかは疑問がある。愛されるということは必ずしも経営者の徳目ではないので、経営者としての評価そのものではないが、筆者が名経営者列伝を書くとしたら、最優先は前者である。おそらく、経済記者として、その感情は共通のものではないか。
たった一人だけ、伝記を書けと言われれば、残念ながら絞り込めないので、2人を書かせてくれと頼み込んで小倉さん、飯田さんを選びたい。お二方とも、日本経済新聞で「私の履歴書」を書かれているので「正史」はそれに任せるとして、本人には書けない、社会へのインパクトを中心に、その超常識性について掘り下げたいと思う。今回の企画の中で感じたのは、こうした「常識超え」をした人々が時代を次に推し進める、という反省だ。この不況を脱却させてゆくのも、そうした「常識超え」に果敢に挑戦するビジネスマンたちだろう、と期待している。