無在庫経営への遠い道
20世紀の末から21世紀にかけて米国経済は復活し、ITのミニバブルが起こって新しい好況のステージに突入した。その好況はITによるもので、従来の景気循環を脱却したものである、として自信に満ちた「ニューエコノミー」の宣言がなされた。インターネットによって供給と需給の調整が効率よく進行して、無用の在庫を抱えなくて済む経済システムが完成した、というのである。
日本でもトヨタ自動車の在庫をもたない適切な発注方式である「カンバン方式」が経営モデルとして普及していた。「無在庫経営」あるいは「リーンマネジメント」などともてはやされた。「カンバン方式」はネットワークを駆使したSCM(サプライチェーンマネジメント)へと発展して、「無在庫」とは言わないにしても「減在庫」経営が実現したと評価されたのである。
しかし、その幻想が壊れたのが、2001年の「9.11同時多発テロ」による物流の混乱だった。計画生産を前提にした極端な在庫圧縮によって物流の混乱は各所で部品、原材料の調達難に陥って生産現場は混乱し、卸売、小売店頭でも品不足が広がった。「減在庫」は突発的な事件に弱点をさらけ出したのである。テロ、戦争、パンデミック、そして突然の経済恐慌である。
昨年のリーマンショックも突発的な事態だった。予想外の需要の減退である。自動sy業界でみると、ガソリンの高騰による高級車の需要減に加えて、リーマンショックによる不況で一挙に需要が冷え込んだ。世界の主要な自動車メーカーが大赤字を記録して、重大な危機に直面するメーカーが何社も出たのも無理はないだろう。
ネットワークを基盤にした「減在庫」経営も、こうした予想できない突発的事態を織り込むことはできないのか。減在庫も難しいとなれば、「無在庫経営」など遠い夢のようである。