ショーアップで売れ! ~異色スーパーの魅せる売り場演出~

ショーアップで売れ! ~異色スーパーの魅せる売り場演出~

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安いだけでは客を呼べない

 筆者が新聞記者として食品産業を取材していたころ、1980年代前半だったが、「価格破壊」で売上を伸ばしてきたスーパー業界にもしだいに頭打ち感が出てきた。「安い」と思っていたスーパーも意外に安くないではないか、と、消費者の間ではスーパーを見直す評価が広がり始めていた。当時、最大手のスーパーもこれを認めて、突然、別の業態の低価格小売店を展開しようとした。これが激しい対立の基になった。

 新しい業態というのは店舗がまず、変わっていた。内装は施さず、倉庫のような店構えだった。陳列棚も粗末で、ダンボールがあちこちに転がっているような感じだった。さらに来店客を驚かせたのがその商品の安さだった。人気ブランドの加工食品が半額近い値段である。開店初日から来店客が行列を作った。筆者も郊外の一号店まで取材に出向いた。

 しかし、商品を手にとってよく見ると、それは人気ブランド品と商品名やパッケージがそっくりの別物だった。新店舗を展開したスーパーの側では、建設費を節約し、店舗内も経費をかけないので、価格が安く抑えられた、と説明したが、果たして実態はどうか。

 試しにいくつか購入した。当時、テレビCMでの宣伝で人気があった即席みそ汁のそっくり商品もあったので、早速、試食してみた。似ても似つかない味だった。パッケージのデザインも記者クラブに戻ってじっくりと観察してみると、色合いも印刷もはるかに質が劣るものだった。スーパー側では消費者はデザインや印刷費に経費をかけることを望んでいないとして、コストを抑えられた理由に挙げたが、パッケージが粗雑だと内容も丁寧なものは期待できない、と感じたのは筆者だけではなかったようだ。

 当時の一流食品メーカーはそろって激怒した。まず、パッケージデザインや商品名が酷似していて、消費者が一流ブランド品と間違えて購入する懸念がある。錯誤した消費者が本物のブランド品に対する信頼も失わせる危険がある、というものだった。激しい抗争が始まり、やがて法律論争にまで発展した。

 結果は、スーパー側の負け。この業態は消滅したが、法律論争に待つまでもなく、勝敗は決まったに違いないと思う。品質が悪すぎた。たとえ半額でも、耐えられない質の悪さだ。消費者は低価格だけでは満足しない。店舗もそうである。店舗の魅力も必要である。陳列のきれいさも満足度を評価する重要なポイントである。その騒動以来、数多く登場する安売り店も、低価格だけでは勝負をしていないように見える。「お客様」は神様。手抜きをするとすぐに見破られてしまう。

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