「相続税」をどのように減らすか~~大川功さんはこうした
かつて、筆者が「相続税」について深く考えさせられたことがある。情報サービス大手、CSKの創業者、故・大川功さんと対談した時である。大川氏はそのころ、個人の保有株式だけで時価数兆円の資産を保有している、と言われていた。しかも、すでに癌の治療と闘っていて、時々、全身の血液を入れ換えるという最新の治療法で体調を維持している、という状況だったが、外見はすこぶる健康そのもので、高級ワインを飲み、贅沢な食事を楽しんでいた。
その大川さんの口調が鋭くなったのは、相続税について語る時だった。自分がどのような破産の危機に何度も直面したか。死ぬ思いでその危機を乗り越えるのに、行政は何の支援もしてくれなかった。ところが、「利益が出始めると、人の努力した利益の中から多額の税金を課し、使い切らずに蓄積した分は、自分が死んだ後、また、高額な相続税によってその財産を巻き上げる。何のリスクもなく、人の努力の結果を図々しくしゃぶり尽くすのは我慢がならない」というのである。
そこで大川さんが取った対策は、税金がかからない方法で財産を「有益に」消費することだった。消費の対象はベンチャー支援である。大川さんによれば、「搾り取られた税金が将来の企業を育てるベンチャー資金にでも有効に使われるなら許せるが、どこに行ったか分からないうちに消えてしまう」。それならば、「自分の資金を投資する会社を作って、期待できるベンチャーにどんどん投資する」ということである。
極端な事を言えば、「損をして資産を減らす」ことが目的だったから、成長が確実な企業に投資することではない。面接試験は、東京・赤坂の行きつけのクラブで深夜、行われるそうだ。決められた日に、一通り、知人たちと会食を楽しんだ後、候補のベンチャー起業家を呼んで企画を聞く。中身を聞いた後、大川さんは「それで、これはもうかりますのか?」と聞いて、相手が「これは確実にもうかります。大川会長にももうけてもらえます」と答えると、「そうですか。それならば、私が出資しなくても、他のキャピタルが喜んで出資するだろう」と言ってお引き取り願うことになる。大川さんは「もう、もうけたくない」のである。
しかし、企画は非常に面白いが、「なかなか社会やユーザーの理解を得られないので、失敗するかもしれない」というような自信のない回答があると、「失敗するにしても、面白い企画だから、やってみたら良い」と、合格のハンコを押すそうだ。「損した方が良い。もうけて、税務署の役人を喜ばすような相続税を払いたくないからな」と、豪快に笑った。「その中から、本当に次の日本を支えるような企業が成長すれば、それが一番の本望だが」と付け加えるのを忘れなかったが。