中国産の冷凍餃子に農薬が混入していた事件で、改めて生産履歴、流通履歴]情報の記録、保管、さらに閲覧を容易にする「トレイサビリティシステム」の意義がはっきりしてきた。日本では二次元バーコードやRFIDを商品に付すことによって、流通事業者や消費者が普段から生産者の特定、商品の成分のチェック、使用されている農薬や医薬品の点検を行えるようにシステムを構築しようとしている。
このシステム構築には当初は生産者の強硬な抵抗があったが、その後、農産物のチェックを進めた結果、生産地の偽装や使用農薬の違反などが広範に摘発されて、こうしたシステムに反対していた生産者や流通事業者の法令順守が厳しく問われることになった。トレイサビリティは消費者のためでもあるが、正しい方法を遵守している生産者が、その正当性を主張する道具ともなった。
トレイサビリティの有効性を主張する当初の議論では、業界に対してもっとメリットが出ることとして、一旦事故があった際に、原因の究明がいち早く行われることが上げられた。生産や流通の過程がいちいち記録されているので、事故原因の地点が特定され、それ以外は安全である、という宣言を短期間に発することができる。今回の不幸は、中国にはこのトレイサビリティのルールが及ばないので、原因究明が遅れたことだ。このことによって、他の中国産製品まで疑いの目を向けられ、「推定有罪」の扱いを受けてしまうことである。原因が特定され、危険な製造日、製造ラインが特定されれば、安全宣言も発しやすい。消費者の安心、安全のトレイサビリティは結局のところ流通事業者や生産者の被害もまた極小化することができる。
中国の食品メーカーの経営者は「自分たちこそ被害者だ」と主張しているが、そうだろうか。こうしたトレイサビリティシステムを完備して安全を証明しない限り、いくら事後に施設を見物させても他人を説得するのは難しい。トレイサビリティは、こうした事件が起きたときに備えた「保険」でもある。このことに気がつくなら、これからトレイサビリティの情報システム構築需要が、大発生するだろう。