恥ずかしい話だが、数週間前にタクシーを降りた後、財布が無いのに気がついた。乗車したのは金曜日で、財布が無いのに気がついたのは、実は、3日後の月曜日朝、背広を着たときだった。運悪く、金曜日の夜は荷物が多く、面倒だったので領収書ももらわなかった。ただ、はっきりと、運賃を支払って、財布を閉じたのは記憶に残っている。自宅前で降りたので、玄関までに落としたのならすぐ分かる。自宅の中も徹底的に家捜ししたが、まったく影も形も無い。
タクシー会社の名前も自信が無いので、検索エンジンで「タクシー、忘れ物」で問い合わせの場所を調べて、遺失物の問い合わせセンターに電話をした。
むなしく、通話中の音が返ってくる。10分後にもう一度。20分後にもう一度。30分後にさらにもう一度、と繰り返したが、通話中の信号音が返ってくるのみである。いらいらしながら繰り返すこと10数度、ようやく呼び出し音が返ってきてほっとしたのも束の間、相手の音声は録音で、「ただいまこの電話はたい
へんに込み合っています。このままお待ちいただくか、しばらく後にかけなおしてください」というアナウンス。携帯電話からだったので、電池が切れてはいけないと、掛けなおすことにした。これが大間違い。次にかけたときには、再び通話中の連続で、録画のアナウンスにすらたどり着けない。ようやく10数
度の掛けなおしの後に、再び呼び出し音が鳴って今度こそはと期待したら、なんと「午後5時で本日の営業は終了しました。また明日の朝、おかけ直しください」と、答えてきた。ふざけるな。
翌朝は、何度もの通話中の信号の後、ようやく呼び出し音。予期したように「ただいまこの電話はたいへん…」の録音の声である。もちろん、一度切ったらいつ再びつながるかは分からないので、じっと、繰り返しかかるこの応答の音声を聞きながらひたすらじっと待つ。今度は卓上電話。それも、スピーカー
ホンにして、他の仕事をしながらじっと待つ。10分、20分、30分、40分、この電話はただのアリバイのための番号で、本当は午後5時までこのままではないか、と疑い始めたころに、ようやく男の声で応答があった。
相手はぜいぜい息切れしている。殺到する電話に追いまくられて疲れきった声である。声からすると、元タクシーの運転手さんで、故あって電話応答係りに回された初老の男の方と推察した。クレームか、それとも遺失物かと聞いて、遺失物と答えると、しばらく待てというので、このまま放置されるのではないか、と警戒したが、そうではなく、端末の画面を遺失物受け答え用に切り替えるのに時間が必要だったらしい。後は、順番に質問、答えと返して、数分で遺失物の登録が終わった。相手の疲労困憊は手に取るように分かった。人員が少ないのである。次々とかかるクレームや遺失物の電話に振り回されて、午後5時が来ると、ぱっと仕事を終えなければ、とても体も心も持たないのであろう。
後で調べると、インターネットで遺失物登録する方法もあるのだそうで、それならば、「このまま待て」などと言わずに、インターネットでも登録できると一言、言ってくれればこちらも切り替えたのに。無駄な時間だった。
しかし、電話を切った後に思ったのは、専門のコールセンターを充実させれば良いものを、ということだった。まだまだ、コールセンターに任せればよいものを、こういう非効率な仕組みで顧客へのサービス内容を劣化させている。顧客満足度を高める絶好のチャンスを逃している、こういう事例はまだ、たくさん残されているに違いない。専門担当者によるコールセンターの需要はまだまだ膨大に眠っていることを確信した。