人件費はどうなるのか――インフレのつらい時期

人件費はどうなるのか――インフレのつらい時期

 世界の景気に厚い雨雲が覆いかぶさってきたような気がする。米国のサブプライム問題も依然として深刻な爪あとを残しているが、さらに石油の高騰、穀物の価格上昇、諸物価の上昇である。それも世界的規模で一斉に起こり始めた。

 1980年代、90年代に同様の海外の原料商品の高騰があったが、その時期はドルや欧州通貨に対して円が強くなったので、値上がりをかなり吸収し、商品によっては国内流通価格の段階では値下がりするというものさえあった。90年代終盤からは、東南アジア生産の安い産品の流入や日本国内の需要縮小によって国内はデフレが続き、社会生活はなんとか回っていた。しかし、今回は久しぶりの大幅なインフレの予感である。しかも、中国やインド、東南アジアとの競争で人件費を上げるわけには行かないのは、日本の産業界は骨身にしみて認識している。国民はインフレに耐えられるのだろうか。いや、従業員の賃上げ要求をまともに受ける企業経営はどうなってしまうのか。

 とりわけ人件費が大半のコストである情報サービス産業には悩みは深刻である。賃金上昇の圧力をどのように吸収するのか。賃金が上げられなければ、ただでさえ3Kだの6Kだのと嫌われている情報産業に人材を集めるのは難しい。

 こうした悲観論ばかり並べても気持ちはしぼむばかりだ。とはいえ、ノー天気に楽観論を夢見ている時期ではなくなったようである。冒頭の不安要因の上に加わったのが中国の懸念だ。日本経済、どころか、世界経済が頼りにしてきた中国でチベット問題をきっかけにした治安の不安が広がって、その上に、今度は大震災である。世界経済を押し上げてくれるはずの北京五輪に影響が出てこないか。従来の経済見通しを大きく狂わせる事件の続発に、しばらく、事態を注視していなければならない。

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