10年ほど前に5年間ほど慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)の教授を務めた。大学院政策・メディア研究科所属の教授だったが、授業は学部の大教室の講義やゼミ(研究会)も担当し、教授会やら委員会などに出席すると、教授になる前に夢想した研究活動などに充てる時間はとても絞り出せなかった。ただ、キャンパスに集まっている教授陣はそれなりに個性豊かで、今日まで付き合っている人も多く、その人脈は宝である。
そのユニークな教授陣だが、当時、学部は2学部。一つは「総合政策学部」で、もう一つは何と「環境・情報学部」である。環境と情報技術がセットになった学部である。当時は環境とITがシナジー効果をもつなどとは思っていなかったようで、学部首脳に「環境と情報の連携を意図した学部ですね」ときくと、本音かどうかは知らないが、「いやー、環境学部と情報学部の2つを作りたかったが、認められそうもないので2つを単純にくっつけただけですよ」というはにかんだ答えが返ってきた。しかし、現場の研究活動では、地球環境のさまざまな問題をコンピュータープログラムで解析する試みや、環境対策を考える情報システムの提案がたくさんあった。コンピューターと通信は、やはり、地球環境問題を解決する強力な道具なのである。
一方で、情報機器は大量の発熱を伴う資源多消費型の製品である。たとえばサーバーの発熱量が大きいので、それを冷やす冷却装置に使うエネルギー量も膨大になる。データセンターの使用電力の半分以上は冷却用に使用されていると言われている。地球環境対策の道具がまた同時にエネルギーを食いすぎる厄介者では、消費者の信頼は得られない。今後の情報産業の技術開発の目標の一つが「グリーンIT」である。ICTによって、環境を汚す炭酸ガスの削減を実現する総量と情報システムが発生する炭酸ガスの総量を比較すれば、ICTが炭酸ガスを削減する効果のほうが断然、大きいはずである。
ICTは結果として低炭素社会を実現する本命の技術であることを確認して、また、情報システム構築に励まなければなるまい。