総理大臣の耐えられない軽さ

総理大臣の耐えられない軽さ

 国会中継を聞いていて、長いため息をつかざるを得なかった。国の最高権力者が、議員の質問に正面から答えられないので、はぐらかす、誤魔化す、頭や顔をぼりぼり掻く。「あなたの言っている質問の意味が分からないのでもう一度、言ってください」「今の段階では知識がない」などと開き直る。はぐらかしているのではなく、本当に意味が理解できないのなら、国を任せる総理大臣の資格がない。情けなくなる。

 それでも政権政党がこの人を総裁にし、総理大臣に選んだのは、選挙までのごく短期間のことだから、と能力不足に目をつぶってのことだったろう。最初のシナリオ通りなら、史上最短の総理大臣になったかもしれない。今頃は選挙の真っ最中だ。ところが、この人は居座ってしまった。思いのほか、総理になった直後の支持率が良くない。このまま解散すれば政権交代である。支持率が高ければ臨時国会開会直後に即解散、という党内のプレッシャーも強かったに違いないが、支持率が低かったために逆に解散のタイミングを逸して延命が成った。

 こうしてみると、解散権をもつ総理は強い。総理に追い風になったのは米国の金融破たんである。日本の株式相場が暴落した。経済危機が大きく目前に迫った。こんなときに選挙で政治的空白を作ってよいのか、というのが表の理由。選挙をやって勝てないならば、しばらく時の最高権力者の地位を楽しんだほうが人生の幸せ、と、開き直ったようにみえる。国会答弁もなんだかんだと厚顔に誤魔化していれば、「質問時間」という物理的現象が味方してくれる。

 「総理大臣ごっこ」を始めてしまったのである。

 重要な政治的決断はこれから期待できない。この人は社会生活をしたことがないので、いま、社会では何が起こっていて、政治家は何を決断しなければいけないか、おそらく全く理解できないのだろう。自分自身の総理のいすの快適さに有頂天になっている。国難を背負って苦吟し、のた打ち回った先達の使命感をもった政治家とは人種が全く違う。それを本人は「オレのキャラ」というような無意味な言葉を発することによって通り過ぎてしまう。このままでは問題はすべて先送りにして、来年の夏まで、のらりくらりと総理を楽しみかねない。

 与党のパートナーであるもう一つの党は7月の都議選の準備があるので、衆議院選は今年中にやって欲しいと圧力をかけているらしいが、この総理にはもう怖いものはない。連立を解消する、と脅かしても、どうせ選挙すれば、ほぼ、総理を継続できる目はないのだから、連立がどうなろうが、結果は同じだ。とすれば、「連立解消」は脅しにならない。与党の合計で総理を選べる過半数を確保できないとなれば、「連立のパートナー」が票を減らそうが減らすまいが、選挙後は意味がないのである。

 上記のようなシナリオに陥れば日本社会は泥沼である。上記のシナリオが杞憂に終わることを切に望むところである。しかし、政治空白による不況という新しい状況も、IT産業界は覚悟しておいたほうが良いかもしれない。

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