筆者の古巣のマスメディアが厳しい荒波に揉まれている。サブプライム問題に端を発する米国金融経済の破綻が消費不振、米国市場の購買力後退を招き、輸出の依存の大きかった日本企業に打撃を与え、不動産の買い控えが広がり…と将棋倒しで不況の連鎖が実経済に響いてきた。新聞社には広告出稿の激減という形で周辺のあちこちから将棋の大駒が倒れ掛かってきた。
新聞はこのところ広告の減少でページが薄くなってきた。広告内容も少しずつ上品さが消えてきたような気がする。今までに見たことがないような怪しい広告に違和感を覚えることもある。広告収入が落ち込んでいる。予算の7割程度しか確保できない、と新聞の広告担当者が青くなっている。
ただ、新聞はまだ良い。読者から購読料金(新聞の側から見ると販売)を受け取っているので、原則的には広告収入半分、販売収入半分である。そのうちの広告が3割減でも全体としては15%減である。もちろん、それでも顔が青くなる減収だが、隣の業界であるテレビを見ると、事態はもっと深刻だ。テレビ放送局の収入はほとんどが広告に頼っている。インターネットを使った有料番組の収入などゴミのような存在だ。その収入が3割減れば、経営本体にガタがくる。ひたすらこの不況の嵐が通り過ぎて青空が戻ってくることを祈るしかない。顔面蒼白である。
しかし、この期間に仕上げなければいけないことがある。体質転換である。この収入激減の要因はサブプライム不況だけではない。マスメディアにとっては、既存メディアからインターネットメディアへのメディア構造の大転換がある。既存メディアの地盤の下では構造的な破壊が進んでいるのである。その崩壊は、明るい景気の日がさしてきても、決して止まらない。景気の回復をじっと待っているのでは、次の時代が来ても、衰退を続けるだけである。心配なのは、そのことをマスメディアの人びとは気がついているかどうかである。どうも楽観論に徹して、そのような悪いシナリオには目を向けてはいないのではないか、という疑いを持たざるを得ない。産業が構造的に崩壊しつつあるのに、ひたすらただの景気循環だと思い込もうとしているのではないか。
議論がしつこくて恐縮だったが、もう一つの筆者の懸念は、同じ事が情報サービス産業で言えるのではないか、ということだ。今は景気が悪いので何とか、景気が回復するまで、しのいでゆこうという構えではないか。しかし、情報産業は中国やインドの技術力向上との競争を抱え、さらにブロードバンドの普及によってSaaSという新しいサービス供給形態の普及という従来の構造を突き崩す新しい環境が既存ビジネスモデルを破壊している。加えて、派遣法などの制度的締め付けが業界の存続を脅かしている。メディアだけに大波が押し寄せているのではない。情報サービス産業も根本から見直しが必要だ。