過去は一度忘れて、政府の大胆な財政出動に期待する

過去は一度忘れて、政府の大胆な財政出動に期待する

 大企業が自社の収益確保に走って、経費を削減する。多くの企業でこれを実行すれば、需要は縮小してどの企業も売り上げが減って、さらに経費の削減に向かう。負の連鎖、マイナスのスパイラルに入る。個々の企業の経営は間違っていないが、結果は、ほとんどの企業を泥沼に導く。経済社会は破綻の道を突き進む。その流れの中でごく一部に経費削減を助ける企業が繁盛する現象も見られるが、局部的でマイナスのスパイラルを止めるだけの力はない。それぞれの部分が合理的な行動をとると、全体としては非合理的な結果を生むことを「合成の誤謬」と呼んで、「部分最適は全体最適を導かない」などと言われるが、だからと言って個々の部分としては合理的な行動を取るしかないので、売り上げが落ち込んでいる企業に経費を増加させることを要求することは無理である。

 売り上げが極端に落ちている企業に「派遣社員を切るな」とか、「正社員のリストラをするな」と要求するのは無理である。「全体社会を考えろ」と言われても、この企業の収益力が落ちればキャッシュが回らなくなって倒産するしかない。倒産すれば、派遣社員や正社員を雇い続けるのは不可能で、もっと多くの失業者を出すことになる。

 個々の企業に要求するのが無理なら、ここは経済合理性とは異なる論理で動く政府の財政出動に期待するほかない。財源がないので、国債を発行して資金源とするのも止むを得ない。将来、消費税を引き上げて国民からその資金を強引に吸い上げようとすると今現在の民間の経済活力を傷めるので、どうせ将来の資金を今この急場をしのぐのに使わせてもらうなら、利息を払う約束で国民から借りる方がまだ、増しである。

 国債は借金だが、国のバランスシートで見れば、政府の部の資本が増えて、国民の部の有価証券保有高が増えるので、国内で見る限り、プラスマイナスがゼロである。負債ではあるが、長期の借金ではなく、インフラ投資をするための資本調達で、インフラ建設の際に雇用を創出すればマイナススパイラルに入った経済の流れを止めて、逆方向に回転させる機会が作れる。後世の配当を生み出す意味のあるインフラ投資をこの際に行って、一刻も早く負の連鎖を断ち切るべきである。

 後世の役に立つインフラ投資は、もちろん、従来タイプの道路や土木工事ではない。環境負荷の小さい効率的なIT社会建設のためのインフラ作りを筆頭に、風力発電、太陽光発電、潮力発電、バイオエネルギー開発などの自然エネルギー利用のインフラ建設がそのメニューである。日本の食糧安全保障のための新農業構築のための投資も必要だろう。国債を「国の借金」と捉えずに、「インフラ投資のための資本充実」と頭を切り換えて、国債増発による財政出動をできるだけ早く行うべきである。百年に一度の危機を乗り切るには、発想の転換、価値観の転換が必要だ。その新社会建設の頭脳と神経となるのは、情報通信インフラである。情報産業がその使命達成のために元気を取り戻さなければならない。今年はその瀬戸際の一年である。

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