情報サービス産業でここ数年、大手ベンダーや大手発注企業が、さまざまな「請負」を回避して「派遣」に切り換えるように中堅・中小ソフト会社に要請してきた。「要請」というような生易しいものではなく、力関係の大小からいえば、実質的には「命令」に近いものだった。協同組合のメンバーから、強い反発があったし、発注側の現場でも業務に支障が出るとして戸惑いがあったが、発注主企業の法務関連の担当部門から「コンプライアンス」の観点から現場に指示があったので、「派遣」への切り換えが推し進められてきた。
JASPA(全国ソフトウェア協同組合連合会)でも、たびたび、こうした「派遣」への切り換えは実態を無視した合理性を欠いたものだとして、監督官庁の経済産業省に事情の説明に出向いてきた。
発注元が「請負」を「派遣」に切り換えるように要請してくるのは2つの理由が複合したものである。まず、セキュリティの観点から、業務を自社の事業所内で集中して行う要求が出てきたこと。次に、発注主の事業所内で作業を行うことは、厚生労働省の基準でいうと原則的に「派遣」に該当する。厳しい例
外条件の下でないと、「偽装請負」として摘発されるリスクを伴う。そこで、発注主の法務部門は厚生労働省と無用の摩擦を起こさないために、用心深く、一律に情報システム開発について「請負」を「派遣」に切り換えるという、実態に合わない指示を出してきたと思われる。「コンプライアンス」の一環として厚生労働省の指示を用心深く拡大して社内ルールに厳しく適用しているのである。
しかし、このコンプライアンスの大本である霞ヶ関の考え方に大きな変化が出てきたようである。一言で言うと、厚生労働省の「請負」と「派遣」の解釈は実態に合わない、という認識である。政府は、格差社会拡大の悪の根源は「派遣法」にあるとして見直しを進めているが、その一環として経済産業省は今年に入って、「請負」の範囲を、合理性を欠いて極端に狭く解釈しすぎている、と強烈に批判し始めた。派遣法が、請負を派遣に「追い込んできた」と批判の調子は極めて手厳しい。
特に個人事業主の情報技術者による請負について、東京労働局は「請負」を「派遣」に切り換えるように勧めるように取れる自主点検表をホームページに掲示していたが、突然、1月にこの点検表の掲示が消えた。発注主のコンプライアンス担当が「請負」を「派遣」に切り換えるように社内ルールを変えたのは、恐らく、この点検表がきっかけだった思われる。ところが、労働局の方は、何の断りもなく、訂正もなく、点検表の掲示を止めたので、かつてこの点検表をみて実態に合わない社内ルールを作った発注元の企業はこの事態の急変に気が付いていないだろう。
この個人事業主を「請負」から「派遣」に切り換えるように勧めてきた労働局の根拠は中堅・中小のソフト会社を「請負」から「派遣」に切り換えるように「追い込んできた」根拠と共通するものがある。労働局が自主的に訂正をしないので、発注元は誤解し続けている可能性がある。中堅・中小ソフト会社の側から、発注元に注意を喚起しなければ、事態は改善されないだろう。