今回の新型インフルエンザは恐れていたタイプよりも毒性が弱いようだが、免疫がないウイルスなので、徹夜明けの体力が衰えている技術者などが罹患すれば症状は重くなるかもしれない。「パンデミック」として警戒してきた事態が必ずしも絵空事ではなく、現実に差し迫ってきていることを実感させる。
そこで考え直さなければいけないのは、いざ、大流行した際の心構えである。自宅からの外出も1週間、2週間、差し控えなければならないが、わがIT業界は幸いにも、通信回線と端末による在宅勤務が可能である。しかし、現在の事業所内でしか仕事をさせない、という未熟な「セキュリティ」体制では、「自宅で仕事」は到底、実現できない。シンクライアントで事業所の外からでも安全に仕事ができる仕組みを早く確立することが大切である。個人情保護法や内部統制の厳格化で、企業はとりあえず、情報の外部への持ち出しやパソコンの持ち込みを禁じたが、これは「とりあえず」の応急措置に過ぎない。理想は安全性を確保しながら、いつでも、どこでも仕事ができる「ユビキタスワーク」である。
自宅の端末からネットワーク経由でサーバーにアクセスして作業をする。アクセス権のない情報には触れられない。また、端末の操作はすべて管理者側のシステムでモニタリングしているので、適正を欠く操作にはすぐに注意の合図が出るとともに監督者にも通知されるので、正当な業務以外の行為はできない。安全性を確保してどこからでも業務ができる環境は可能なのである。
いざという時に急にやろうとしてもうまく行かないので、普段から、事業所の外でもセキュリティが確保されて安全に業務ができる仕組みを実践しておくことが必要だ。セキュリティとは、最も原始的な安全確保の方法である「檻の中の作業」で非効率に業務を遂行することで満足してはならない。高度の情報通信社会では、情報漏洩の危険を抑制して安全性を確保しながら、かつ、災害や疫病の大流行時にも、事業所の外から業務を続行できる「BCM」(事業継続経営)できる仕組みの確立が本当の意味でのセキュリティである。事業所の中に業務を囲い込むという、現在のセキュリティは、あまりにも原始的、幼稚ではないだろうか。パンデミックの騒ぎは、高度に情報を取り扱う新しい社会では、どういう作業の仕組みが必要なのか、あるべき姿を提示してくれる。