「国会議員」の「世襲」批判が強まっている。現閣僚の3分の2が「世襲議員」なのだそうだ。与党の国会議員の3分の1近くで、野党でも旧自民党から分かれていった民主党議員には幾分か、その傾向がある。これに対して、現体制維持派からは「世襲議員」に「特別」なハンデをつけるのは「職業選択の自由を奪う」と反論がある。何が問題なのか。
誤解があるが、今回の争点は「国会議員」の「世襲」で、親が政治家ならば、子供やごく近い親族が政治家になることをすべて否定しているのではない。親族が現国会議員の親の選挙地盤や地元の選挙組織、政治資金を引き継ぐことを指している。地元ではなく、他の選挙区や比例区から出馬するのは「世襲」と言えない。親が政治家であることは知名度においては他の候補者より有利だが、それは知名度の高い芸能人や学者、作家、テレビタレントなど他のジャンルでの知名度を利用して立候補するのと同じだ。政治家の子供が政治家という職業になるのをすべて制限しようとしているわけではない。
また、議論は国会議員、それも地盤を引き継ぐ「選挙区」が対象。地盤を引き継ぐわけではない比例区では意味がない。地元密着が原則で、多数の当選者が同一選挙区から選出される地方議員についても、選挙民に選択の余地が広いので、議論の対象から外すべきだろう。
国会議員の世襲批判を「企業経営」の世襲問題に引き移して議論するのも誤解を招く。類推ができるのは株式公開している大規模な企業の場合だけだろう。大企業グループでは経営幹部の子弟が入社するのを制限しているところもある。大規模な組織を運営するには人事の公平さが必要で幹部の子弟はその公平性を歪める可能性があるからだ。これに対して、中堅規模以下の企業は「私企業」の性格が濃厚で、経営トップのリスクで経営が行われているので、世襲はそのリスクも引き継ぐものでもある。簡単に他人が引き受けられるものではない。後継者は、メリットの継承だけではなく、大きなリスクも継承する。大規模企業にはない個人リスクである。政治家の「世襲」とは意味が違う。
ところで、その後継者候補には、現在の経営者はリスクだけを継承させずに、いずれ役に立つ広い視野や人脈を継承させて、条件を整備しておかなければならない。われわれ協同組合組織は経営トップのそうした責務を果たせるように各種のイベントを用意している。6月初旬に、全国ソフトウェア協同組合連合会(JASPA)で、台湾の情報サービス産業協会との交流のために台湾視察を行うが、これも次の世代に国際的人脈を引き継ぐチャンスを提供するものである。経営トップ自身が参加するのも良いが、さらに、後継者候補もこういう機会に参加させる必要がある。後継者にリスクだけを世襲させてはいけない。「国会議員の世襲」についての議論は、経営トップのあるべき姿を考える機会でもある。