亀井静香金融大臣が主張する「中小企業金融円滑化法」が成立したが、こうした法律の制定で事態が改善されるものなのだろうか。法律で決められたからと言って、金融機関が採算を度外視した取引をするわけにはゆかない。例外的にいくつかの企業について、将来性を見込んで一定期間の採算を度外視し、「投資」と考えて融資する、あるいは返済を猶予するということはありうるだろう。しかし、それは、例外的な少数の取引先にしか適用できない。法律で強制されると、無理が生じて、結果として金融機関の経営そのものの屋台を揺さぶりかねない。
多くの反対論者が指摘するように、返済猶予を余儀なくされた取引先には、金融機関は追加の融資を躊躇するようになる。金融庁が業務改善命令を出す、と脅してみても、不良債権を抱えて経営危機に追い込まれるよりは、まだマシだ、と開き直る金融機関の経営者が出てきて当然だ。「開き直る」というのは言葉のあやだが、「経営危機を回避するのが経営者の責任である」という「筋を通す」ととることもできる。実際、その通りだろう。
この法律がはたして、事態を改善することになるのか。金融機関を強制して中小企業を支援する、法律一本でそうした仕組みが出来上がるのか。「制度設計」というのは、まさしく、法律や制度によって、ある方向に国民や企業を誘導してゆくことだが、それには「飴と鞭」の双方が必要だ。今回は「鞭」ばかりの法律のように思われる。もっと強く言えば「鞭と鞭」の政策と言えるかもしれない。
太陽と北風の寓話になぞらえれば、この法律は「北風政策」である。「飴」に相当する「太陽」も準備しなければなるまい。
政権が、単純に力任せの「強権政治」を持ち出せば、信頼を失うのも時間が短い気がするが、果たして、「円滑化法」は、大方の批判と違って、中小企業の救いの神になることができるだろうか。もう少し注目してみてみたい。