昨年6月、台湾情報サービス協会(CISA)との交流会で台北の大手ソフト企業に出向いた際、驚いたことが2つあった。
2つは、台湾の大手企業は中国に事業拠点を展開していて、主力事業所は台湾内ではなく、むしろ北京や上海、大連、無錫、成都など、中国に配置されている、ということだった。従業員数では8割が中国で作業をしている、ということだった。日本政府が腫れものに触るように、中国との国交を大事にするので台湾の公人と会わないようにしている、という配慮が、ほとんどマンガに思われるほど、世界状況は急旋回していたことだ。
もう1つが、中国IT技術者の給料の高騰である。1年半前の時点で、すでに東京の人件費1に対し、北京と上海の人件費が0.9~1で、大連付近で東京1に対し0.4-0.5というような水準だった。この1年半で中国の経済は10%近い成長をし、人件費もさらに上昇している。「安い人件費」を求めて中国にオフショア開発を展開する、という時代は終わった、という事実に直面した。
しかし、日本に戻ると、相変わらず「安い人件費」を求めて中国に進出するという記事ばかりで、先入観から抜けきれない日本のマスコミ、日本の平凡な経営者に警鐘を鳴らす必要を痛感したものである。
そしてもちろん、時代は、日本の「優秀で安い技術者」を求めて「日本オフショア」が始まろうとしている。日本のノウハウ、ソフトウェア技術を中国のソフトウェア企業に「使ってもらう」時代が来つつあるのである。ただし、懸念がある。日本の技術者の強い自意識では、こうした中国の発注者に抵抗を感じるかもしれない。うまく意識合わせができずに、プロジェクトは失敗するかもしれない。
必要なのは意識改革である。すでに日本国内では使い切った技術でも、中国では役に立つものが「先進国」の中に豊富にあるに違いない。日本ではすでに価値がなくなったものでも、後を追いかけてきた中国社会では重要な価値を見いだせるものはたくさんあるに違いない。最近、中国からはソフトウェア技術への要請が多くなっていると聞く。台湾の皆さんと話をしていても、中国で適用する為に日本の技術をぜひ紹介してほしいと依頼される。日本人では付き合うのが難しい中国企業、組織でも台湾人は巧みに仲介してくれる、という事である。
中国企業による「日本オフショア」は、日本企業にとって新しい状況である。これをうまく日本再浮上のエンジンにするには、特別のノウハウが必要だ。どうも、そのカギは中国にも日本にも通じた台湾企業が握っているのではないか。最近、そんな気がしている。メッサには、台湾有力企業の日本法人も加盟している。ぜひ、月一回の協議会の場ででも、名刺交換をし、協力関係を構築してもらいたい。