IT市場に近いうちにビジネス機会を提供することが期待されるものの1つに「オープンデータ」がある。内閣府の成長戦略の1項目にも挙げられて、近い内には横浜市でオープンデータをビジネスに活用することを促進する組織が発足する予定だ。筆者もそこに参加する予定である。
「オープンデータ」というのは、中央官庁や地方自治体などの行政府が蓄積しているデータを民間に開放する、というものである。2つの意味がある。1つは民主的な社会の構築である。行政が情報を独占して保管(隠している?)するのは、情報の非対称性を助長して市民や国民の権利を著しく損なう。隠さずに公開せよ、というわけだ。
ビジネスにとっては2つめが重要だ。行政が各種のデータを保管しているが、それは、ただ、死蔵しているに留まる。民間に開放し、そのアイデアを活用すれば、経済価値のあるサービスに変えられるかもしれない。どんどんデータを開放して、新しいサービスを産みだすきっかけにしよう、というものだ。
先行事例には「気象データ」の民間への開放がある。
気象庁は広域の天気予報しか発表しないが、気象データを利用できるようになった民間予報会社は、顧客の要求を聞いて、さらに詳細な予報を提供する。地域ごと、細かい時間ごとの予報を提供する。野球場の降雨予測を正確に提供すれば、飲料の売れ行き、弁当の売れ行きがかなり正確に読めるようになる。もちろん、行楽シーズンのコンビニでの飲食品の売れ行きの予測にも役立つ。明日の天気、2日後のこの地域の気象予測が正確にできれば、無駄な仕入れや売り切れによる販売機会損失を防ぐことができる。顧客は対価を払ってでも、きめ細かな気象を求めるのである。
つまり、気象庁に蓄積されていた気象データは、経済価値をもつ、より細かい「気象予報サービス」として発展するのである。
中央、地方の行政機関が収集し、保管しているデータは膨大である。しかし、それは行政がそのサービスに使うに止まっている。これを加工すればさまざまなビジネスに有用な情報や知識にすることができるのではないか。それを提供するサービスビジネスも生まれる。新しいビジネスが発生し、経済を活性化する刺激となるのではないか。これがオープンデータを「成長戦略」の1つに位置付ける理由である。
まず、どういうデータを行政が持っているのか、の情報公開から始めなければならない。次いで、それがビジネスにどのように役立つのか。どんなサービスに結び付くのか。もちろん、データは電子情報として公開され、コンピューターソフトウェアによって加工処理して、サービスが誕生する。今後のソフトウェア産業の重要なビジネス領域になるだろう。