菱洋フォーラム 2003年4月21日
「消費者」「社会」の企業に対して要求する「パワー」が増大している。このところ、それを如実に示しているのが、大手流通グループ「イオン」(スーパー「ジャスコ」のグループ)の動きである。
昨年10月、イオングループは東京商工会議所の記者クラブで緊急記者会見を開いた。同社グループの店頭で取り扱う牛肉の表示の中から当分「県産地表示を中止する」というのである。牛肉については、2001年秋のBSE(牛海綿状脳症)騒ぎをきっかけに農林水産省が生産履歴情報開示システムを構築し、昨年10月に運用が始まった。イオングループは、店頭にある牛の製品をこのトレイサビリティ・システムを使って点検したようだ。その結果、県産地表示に不適切なものが多数、見つかった、というのである。厳しい言い方をすると、産地表示の偽装である。イオングループは、当面は産地表示をやめることで急場をしのぐが以降、生産者側には、厳格な産地表示をすることを通知している。
今年2月、さらに激越な措置を打ち出した。大手食肉加工メーカー、プリマハムの全製品の購入をキャンセルした。原因は、プリマハムからイオンが購入していた加工食肉製品の中に、原材料表示にない卵白が含まれていたことだ。プリマハムは、下請け企業が記載漏れをしたための単純なミスだ、と説明したが、イオングループは、全製品について原材料表示が信頼できないとして、取引を停止したのである。
たかが「卵白」の二文字の記載漏れ、と軽く見てはいけない。卵白は深刻な食品アレルギーの原因物質の一つである。家族に卵白アレルギーをもつ主婦は原材料の小さな文字を詳細に点検して購入商品を決めている。卵白がないと信じて購入したら、家族にアレルギーが出たとなれば、当然、小売店に問い合わせに来る。イオングループのクレーム処理のコールセンターに複数の問い合わせがあれば、顧客のレシートから購入商品を絞り込んで原因の商品を突き止められる。プリマハムの商品はこうして発見されたと思われる。
もちろん、卵白だけではない。小麦粉、そば、水産物、さまざまなアレルギー物質がある。これを厳重に管理することを、イオングループは消費者に代わって厳しく要求することになったわけである。
さらに4月に入って、イオングループは食品メーカーだけでなく、取引先370社にもっと高度な要求を突きつけた。そのメーカーの品質管理だけではなく、取引企業で違法労働をさせていないか、環境汚染の防止措置を法令順守しているか、製造過程にまで踏み込んで反社会的行為がないように要求する。これをしなければ企業は大手の取引先から取引停止処分を受け、経営危機にすら直面することになる。
こうした動きは、すでに欧州のスーパーで起こりつつある。イオングループは日本の商習慣にはないが、最先端を行く欧州の仕組みをいち早く国内に導入するものといえる。もちろん、こうした企業内の法令順守は新たに組織をつくり、法令順守のためのシステムを必要とする。情報システムもこうした分野の監視ができる新しい需要が発生するだろう。
菱洋フォーラム 2003年4月21日