「風力銀座」=下北半島で考えたこと

菱洋フォーラム 「「風力銀座」=下北半島で考えたこと」

菱洋フォーラム 2003年7月23日

 大型の風力発電装置は、高さ100メートルを超える巨大な構築物である。下北半島に見に行った一基出力1500キロワットの風車は、地面から発電機のある塔の部分の高さが68メートル、そこにつけられた風車の羽根の長さが32メートルだった。羽根の先が一番高くに上ったときはちょうど100メートルだ。訪問した日は、台風が三陸沖を遠く、通り抜けた日だったが、雲が低かったので、回転していると、羽根の切っ先部分は雲の中に隠れて、それからさっと姿を現し、なかなか飽きさせない。

 核燃料リサイクルで有名な青森県の六ヶ所村は、今年に入って、こうした風力発電装置がにょきにょきと空に伸び始めた。荏原製作所グループのエコ・パワー社は、1500キロワットの風車を22基建設、高さ100メートルの構造物が約3キロメートルにわたって「く」の字型に並んでいる。風車と風車の間は150㍍程度か。壮観である。周囲に比較する建物が少ないのでなかなか実感できないが、塔の下に近づいてみると、その巨大さに圧倒される。下北半島は、六ヶ所村のほかにも多数の風力発電所建設計画が目白押し。「風力銀座」である。

 ただし、1500キロワットは、すでに最大級のものではない。出力2000キロワットの風車が動き始めている。それが一箇所で20基も30基も並ぶ日も遠くない。かつて米カリフォルニアに取材に行ったときには、丘の上に2000台ほどが並んでいた。そんなことになれば、総出力で400万キロワットにものぼる。1世帯の所要電力は日本では2キロワット程度なので、200万世帯分。こういう場所が20箇所もあれば、計算上は日本の生活需要は満たせる。日本中が風車で満たされるのも醜悪な光景で、とてもそんな姿は想像できないし、産業用はまだ不足だ。

 デンマークでは電力需要の14%は風力でまかなっているそうだ。さらに燃料電池や太陽熱を含めて、再生可能電力は2030年ころまでに35%まで引き上げるのが目標だという。日本も、ここ数年で、現在の10倍程度の規模にはなるだろう。

 風力発電は「風まかせ」で、何か、安定した供給が望めない。電力は貯蓄ができないので、これでは主力になれない、という指摘もある。しかし、風があるときに余剰電力で燃料電池用の水素を発生させ、風がないときは燃料電池で発電する、というような複合型の発電装置を開発するなど、工夫の余地がある。

 それよりも、最も安定していると宣伝されてきた原子力の方が危うい。一斉点検によって東京電力のこの夏の電力供給は危機に陥ると予想されている。この危機で「原子力の有難さが分かっただろう」という声もあるが、事実はその逆ではないか。原子力は、巨大技術のために、少しのミスでも大規模な被害を生みかねないので、こうした点検のための運転停止は、今後、もっと頻繁に起きるかもしれない。1500キロ、2000キロの風車は大きすぎるが、もっと小さな風車で地域のエネルギーは地域でまかなえるような、そういうエネルギー構想を推進すべきではないか。

菱洋フォーラム 2003年7月23日

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