中小企業のIT革新のエースとしてASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)がやっと「登板」の機会が巡ってきたようだ。ASPはネットワーク経由でソフトウェアを利用者に供給する「サービス」で、90年代の終わりから2000年代初めにかけて一時期、ブームになりかけたが、残念ながらITバブルの崩壊時期に勢いを失ってしまった。今回はそれに続く再挑戦になるが、周囲の事情は大きく変わった。今度は本物である。
利用者の側から見ると、ASPは「ソフトウェア利用」というよりもっと広く「情報システム利用」の根本的な変化を意味している。ソフトウェアやデータは個々の利用者ではなく、サービスベンダーのサーバーに保管されていて、利用者はそれにアクセスできる端末さえあればよい。コンピューターを購入し、ソフトウェアを購入して自社の施設の中で管理して運用するという「所有」から、ベンダーの施設にあるソフトウェアやデータを必要なときにだけ借りる「利用」へと形態が変化する。所有から利用への大変化である。
「今度は本物」といえる理由の一つは政策的支援。経済産業省、総務省が日本の中小企業のIT経営革新の後れを指摘し、その打開策としてASPとその発展系であるSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)を取り上げているからだ。ASP・SaaSを利用する中小企業に対して何らかの助成策をつけて、その利用を促進し、豊富なサービスが提供されるように業界振興策を講じようという構えである。すでに中小企業の給与計算や会計事務、飲食店の食材の調達やアルバイトの管理、営業支援事務、会議室予約システムなどに幅広くASP・SaaSのサービスが広がっているが、これらの利用促進のための施策が検討されている。
もう一つはネットワークの劇的な進展である。この10年間でインターネットを利用する回線速度は1000倍、料金もかつての電話利用料よりも安くしかも定額制で高速インターネットが使える。ベンダーの元にあるソフトウェアを回線経由で利用しても時間の遅れも感じないし、料金の心配も不要だ。パソコンやオフィスコンピューターにソフトウェアを収納しているよりはるかに手軽で便利。着々と進む機能向上はユーザーが知らないうちにベンダーのほうで必要な作業をしてくれる。多数の企業が共用なのでコストは大幅に安くなり、これが利用企業を増やし、ベンダーも増やし、さらにサービスメニューも増大している理由である。
その上にSaaSが登場した。ネットワークを通じてソフトウェアを利用する点で、本質的にはASPの発展系だが、2000年代になって技術的に進展したWebサービスの機能をフルに利用する設計がなされているので、さらにユーザー企業には利用しやすい状況が準備されている。Webサービスでは、インターネットの上に開示されているデータベースやプログラムが複合的に利用できるが、ベンダー側で予めそれを準備してくれるので、ユーザー側ではそれが別々のソフトウェアやデータベースとは知らずに、端末に表示されている一つの画面で多数のソフトウェアやデータベースを利用できるのである。
このように技術面でもユーザーにはさらに利用しやすい形式で準備される。
インターネットの登場は、コンピューターを意識せずに本を購入し、航空券を予約し、友人たちと電子メールで趣味の情報を交換する習慣を提供してきたが、企業の業務遂行も、コンピューターを意識せずに、画面の向こう側に広がるネットワークを泳ぎ回りながら容易に効率よく行える時代になる。それがASP・SaaSの時代である。