いよいよ本格化するインターネット電話

先見経済 「いよいよ本格化するインターネット電話」

先見経済』 2002年10月16日

 インターネット電話(IP電話、VoIP=Voice over IP)が急速に普及しそうな気配である。総務省が九月末からインターネット電話専用の電話番号の申請を受け付け始めたため、NECをはじめ、NTTグループやKDDIなどが一斉に名乗りを挙げている。日本の電話産業が大きく変わるきっかけになるかもしれない大きな変化だが、当然、利用するユーザー側にも大きなメリットがある。企業にとってもコストダウンの武器になるかもしれない。家庭内にインターネット用の装置が入ることにより、さらに映像情報のIP化も容易になって、テレビ電話、テレビ会議などの幅広い応用のインターネット利用の電話は、これまではパソコンを使用するのが主流で、一般ユーザーでは手軽に利用できなかった。また、既存の電話機を利用するケースでも、従来は受信用の電話番号がなかったので発信が中心で、受信には専門的なテクニックが必要で一般のユーザーには難しい問題点があった。今回、総務省がインターネット電話に050の番号を割り振ることになったため、既存の電話機にアダプターをつけることによって、受信も楽になり、これまでの電話サービスとほぼ同等になる。

 インターネット電話の利点は、なんと言っても、料金の安さである。十二月からNECが開始するIP電話サービスは、電話料金は全国一律で、三分八~九円の低額である。同社が提供しているインターネットサービスの「ビッグローブ」の会員で、さらにADSLに加入している会員が対象になる。すでにパソコン利用のインターネット電話では実現していたが、会員同士の間の通話は無料になる。これはインターネットで電子メールを利用したり、ホームページを閲覧したりしても、定額の会費を払っていれば使用できるのと同じ仕組みを利用するからである。有料なのは、インターネット電話から通常の電話にかける際の料金である。

 電話料金の大幅なコストダウンになる。特に、全国に支店や営業所を配置している企業にとっては、社内通信の費用が大幅に圧縮できる。また、取引先との間で、電話での営業や事務連絡が多い企業でもコストダウンが期待できる。

 インターネット電話は、簡単に言えば、インターネットを中継回線にして電話をかける仕組みである。これまでの電話は、電話会社が電話専用の回線を張り巡らせて、両端の端末で音声会話を中継してきた。これまでの電話では、両端の端末がつながると、回線は両者に占有されるので、回線の利用効率は悪く、電話料金は割高になる。

 しかし、インターネットが登場すると、情報を伝達するのに利用できるネットワークは電話回線に限定する必要はなくなった。CATVの回線にインターネット信号を流しても良い。鉄道や電力会社が自社の事業のコントロール用に使っていた光ファイバーの余力をインターネットに開放するサービスもある。街中ににょきにょきと誕生しつつある無線LANもインターネットを中継してくれる。料金が安くなる秘密は、インターネットのこのような仕組みにある。

 インターネット電話では、電話機から吹き込まれた音声情報は、アダプターで一度、デジタルに変換されてさらに多数の細かな単位(パケット)に分割され、さまざまなルートに分かれて目標となる端末に向かって移動してゆく。目的の端末にパケットが集まってくると順番に並べ替えてもとの音声に戻すのである。この方式だと、回線を占有せず、他の情報と相乗りで回線の空いているところを選んで移動してゆくため、回線効率はきわめて良くなる。この結果、電話一件あたりのコストは飛躍的に下がるのである。将来は、常時接続のネットワークで相互にこれが利用できるようになると、電話料金は基本料金に含まれて使い放題になってゆく可能性があるが、つまり、ただ同然になると予想されているが、これは当分先のことになるだろう。

 こうした低料金の電話が普及することになると、電話交換機と電話回線を張りめぐらせて音声通信を中継してきたため、相対的にコストが高い従来の電話産業は、今後、窮地に陥ることになる。コスト的に競争力を失う恐れがあるからだ。

 特に、ブロードバンドが全国に普及し、どこでも常時接続で高速のインターネットに接続できるようになると、安いインターネット電話へと需要がシフトし、このままでは電話交換機を中継するシステムを使用しなくなる恐れが出てくるからだ。もちろん、既存電話会社も、このインターネット電話サービスに進出しているので、既存電話会社がただちに行き詰まるというわけではないが、利用する仕組みはインターネット方式へとシフトするのは間違いない。既存の電話交換機や電話ネットワークは、インターネットに利用できるインフラとして、これまでとは違った形の機能を果たすことになるだろう。

 インターネット電話の普及は、次に、映像情報の普及に道を開くことになるだろう。IP方式をベースにした映像カメラを利用して、あちこちの映像を、インターネットを通じてのぞき見ることができる。
 近所のスーパーの売り場の風景だけでなく、商品の色、値札、売れ行きなども自宅や職場のパソコンに呼びだして見る。カメラの角度をこちらの指示で動かすことができる。子供の通う保育園や学校の学習風景を呼び出して見ることができる。おじいいさん、おばあさんが暮らす老人ホームの風景も見られる。当然、インターネット電話で音声もつながるので、映像を見ながら、相手と会話を交わすこともできる。そうなると、銀行の窓口、自治体の窓口、弁護士、お医者さんなどと自宅のパソコンで顔を見ながら相談ができる。ブロードバンドが利用できるようになると、大量情報を交換できるので、何もこせこせとしたパソコンの画面で映像を見ることはない。プロジェクターを使って大きなスクリーンに映し出しても詳細なリアリティに満ちた映像が得られる。

 インターネット電話の本格的な普及は、ブロードバンドを軸に激変を始めた通信産業の構造転換を一段と加速させる。料金体系も、利用するメディアも大きく転換する。インターネット電話の登場は、単に電話が安くなるというだけの理解であってはなるまい。

先見経済』 2002年10月16日

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