『先見経済』 2002年12月1日
新年を迎えるにあたり、地球のことを考えてみたい。二十世紀の文明は地球環境を破壊し、本来、子孫が享受すべきさまざまな資産を現代人で先食いしてしまう過誤を犯していないだろうか。こうした反省が広がっている。その地球環境破壊を救う手段もまた、最先端の文明の利器、ブロードバンドである。ぜひとも、「工業文明」の行き過ぎを「情報文明」によってカバーしたい。沖縄や宮古島でのシンポジウムで戦わされた議論を通じて、ハイテクを何に活用するのか、考えてみたい。
最先端の観光事業についてのシンポジウムが開かれたのは十一月末から十二月にかけて那覇市で「エコツーリズム国際大会・沖縄」、その分科会のひとつとして十二月二日、宮古島の平良市で開催された「ECOバカンス2002宮古島」の二つが注目される。
那覇市の大会では、船山龍二・日本交通公社会長が総括責任者として議論をリードし、沖縄宣言を採択したが、そこで強調されたのが、大量の旅行客を観光地に送り込む「マスプロ・ツーリズム」を見直し、観光資源である自然と共生し、自然環境を維持発展させる「エコツーリズム」を広めなければ旅行業の未来は存在しない、という認識である。大会実行委員長である稲嶺恵一沖縄県知事が発表した。エコツーリズムは、自然体験型の観光プログラムを開発し、人間の心を癒し、自然の重要性を認識する機会を提供する新しいビジネスである。
ついで、宮古島の「ECOバカンス」のシンポジウムは、エコツーリズムを一歩進めて、自然体験だけではなく、自然保護のために積極的に参加するプログラムを用意する。できれば、「通過型」ではなく、時間をかけて「滞在型」の観光を目指すというものである。とりわけ沖縄本島や宮古島地域では、美しい珊瑚の「保護」と「鑑賞」という二つの要請がある。観光客が大量に訪れれば、観光資源である自然が影響を受け、珊瑚が踏み荒らされる危険がある。しかし、地元は観光を収入源にしたいという、経済的な要求がある。
宮古島には、旧暦の三月三日、近海に八重干潮(やえびし:やびじ)と呼ばれる巨大な珊瑚礁が海上に浮上し、漁民がここに上陸して祭りをするという行事がある。これが近年、観光イベントとして開発されたが、フェリーを使って多人数の観光客が上陸して珊瑚礁を破壊する、という事態を招いているのではないか、との批判が起こっている。「ECOバカンス」は、この「経済か、自然保護か」を調和させる新しい視点を提示するのが狙いで、シンポジウムも平良市の伊志嶺市長も参加し、珊瑚礁を中軸にし、自然環境をビジョンにあげた宮古島の観光のあり方が激しく議論された。
「ECOバカンス」の提案の骨子は、宮古島のブロードバンド環境と密接に関係している。宮古島とその広域圏は、ケーブルテレビで宮古圏一帯をサービス地域にする宮古テレビの回線を光ファイバーにすることで、ブロードバンド環境を整備する計画が着々と進んでいる。
ブロードバンドが整うということは、映像情報を含めた高速通信が、定額制でふんだんに利用できるという条件整備である。料金が安く提供できるというのが必須条件である。宮古圏内は、宮古テレビを基盤に、この条件が整うが、残念ながら、宮古圏から沖縄本島あるいは本土へとつなぐインターネット回線はまだブロードバンドの条件が整っていない。まだ、宮古の映像情報を内地にふんだんに提供するわけには行かないが、写真映像程度は問題ない。
そこで、ECOバカンスが考えているのは、宮古島でダイビングを楽しむ観光客に、海中の珊瑚の棲息状況をデジタルカメラに収め、この画像を、インターネットを通じてデータベースに記録してもらうことである。もちろん、いつでも、インターネットを通じて、この記録がどこからでも見られる。旅行から帰った後、自分が珊瑚礁のために行った善意を確認したり家族や友人にこれを見せたり、また翌年、ここを訪れてその健全な状況を確認する楽しみもある。
珊瑚礁の専門学者の団体では、珊瑚礁を監視し、これを保護する運動の一環として、こうした珊瑚礁の定点観測の事業がある。しかし、学者仲間の人的パワーや資金力では、定点観測するポイントは限られるし、定時観測する間隔も間遠にならざるを得ない。この間隙を観光客の参加で埋めてゆこうというのが、ECOバカンスの考え方である。
もちろん、この運度は、地球規模で大々的に行うべきだが、手弁当で取り組んでいる宮古島のグループには、人的限界もあり、資金的にも限界がある。ただ、上記のように、ブロードバンドがあって、少なくとも、宮古島を訪れた観光客には、ふんだんに、各所の珊瑚礁ポイントの映像情報を届けることはできるし、宮古島内にいずれはセンターを設置して観光客の映像情報もここに集積しておくこともできる。こうしたブロードバンドインフラを、自然環境を守る武器に変えようというのが、宮古島の有志たちの運動である。ここで運動のノウハウがつかめれば、世界の仲間に広げるのが次の課題である。
ブロードバンドには、コンテンツが不足する、と、よく議論になる。しかし、現実はとんでもない。映像として魅力ある自然環境の保全を考えれば、コンテンツはふんだんにある。ブロードバンドは自然環境を守ることを促す迫力ある映像を提供する道具になる。 しかし、人的資源、資金の提供が加わらなければ、運動は遅々としたものになる。ブロードバンドは自然環境を守る。企業の社会貢献運動としても、注目される運動である。
『先見経済』 2002年12月1日