映像をふんだんに使う時代

先見経済 「映像をふんだんに使う時代」

先見経済』 2003年12月8日

 ブロードバンド時代の到来は何を意味するか? いろいろの側面があるが、間違いなく到来するのは「映像じゃぶじゃぶ」のアプリケーションの世界である。ビジネスや生活空間が大きく変わる可能性がある。どんな世界が現れてくるのか? 想像の翼を広げて大胆な夢を描いてみる。

 ブロードバンドとは何か? これを「映像」の文脈から表現すると、(1)大容量の情報を高速に通信できるインフラである(映像が瞬時に送信できる)、(2)低料金、定額制で、使い放題のサービスである  の二点である。高速を要求する通信を、つまり、映像通信を、料金の心配なく、心置きなくふんだんに使いこなすことができるのである。「映像じゃぶじゃぶ」とはこういう状況である。

 こういうインフラが出来上がれば、さまざまなサービスが登場することが予想される。比喩的に言えば、新しい巨大な運動場が準備されたようなものである。その上で、ビジネスのオリンピックが始まるのである。長距離競走するのも良い。野球をやるのも良い。サッカーもあれば、相撲もあるし、さまざまな競技をその上で演出できる。それがビジネスになる。まだ、運動場の上は白紙である。

 こういうチャンスの一部は、もちろん、従来から予想されていた。名作映画やスポーツ番組、音楽コンサートなどの映像番組を見たいときに有料で楽しむことができるオン・デマンドサービスは以前から指摘されてきた有力な候補だ。これで大きなビジネスが起こるかもしれない。

 実際、このコンテンツ提供ビジネスは先行の大成功事例がある。ケータイである。この二、三年で、ケータイのコンテンツを提供する新興企業が次々に株式を公開した。どの企業も売上高利益率は大きい。サイバード、ジグノシステム、インデックスなど、ここ数年、次々と急成長している。その理由は、数年のうちに、インターネットにつながるケータイの爆発的な普及がある。あっという間に五千万台が普及した。この突然、出現した大オリンピック会場にいち早く飛び出したのが、ケータイコンテンツで成功を収めた企業群である。

 これと同じように、ブロードバンドのプラットフォームを利用するコンテンツ提供ビジネスが成功を収めるだろう。

 ただ、条件がある。この分野は、すでに以前から予測されていたために、数多くのベンダーが準備に準備を重ねている。つまり、うっかりすると「利益なき繁忙」の過当競争に陥ってしまう。ケータイの成功は、コンテンツ料金が二百円、三百円の少額であることが決め手になった。このような少額料金で過当競争になったら、とても収益は望めない。利用者やライバルの虚を突くような意外性をもったサービスを打ち出さなければならない。何か「プラスアルファ」がなければ成功しない。

 さて、コンテンツ提供だけが新しいビジネスだと思っていると大魚を逸する。 コンテンツ提供は「放送型」のサービスである。これに対して「一対一相互」あるいは「一対少数相互」の「通信型」のサービスが存在する。

 最初に登場するのがテレビ会議やテレビ電話型のサービスで、これはすでにいくつかの企業でスタートしている。ユーザーはネットワークを通じてサービス会社のサイトに接続するだけで利用できるASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)のサービスである。

 あらかじめ、複数のライセンス(利用権)を所得したユーザーは、たとえば全国十六カ所の営業所の担当者に時間を合わせてテレビ会議のサイトにアクセスさせると専用のテレビ会議室がそこに現れる仕組みである。現在はパソコン画面の大きさの関係で縦・横四画面ずつ、合計十六の小画面を表示してそれぞれに各地の営業所の担当者が顔を出す。これでテレビ会議が実現する。営業所はそれぞれ各地でADSLや光ネットワークのサービスを契約すればこのサービスに加われるわけだ。仮に月間二千円の通信料金とすれば、合計で月に四万円足らずの通信料でこれを利用できる。

 日本の企業でもブロードバンド利用サービスとしてこの種のサービスを開始したところもあるが、さらに高速ネットワークがつながっていれば世界中、どこでも条件は大差ないということで韓国でサービスを提供し始めたところもある。最も安い料金では、一ライセンス(利用箇所)年間三万円なので月額二千五百円、十六営業所であれば、合計で月額四万円。通信経費とあわせても月額八万円弱で全国十六カ所の営業所と毎日、必要な時間の打ち合わせができる。

 もちろん、営業所が六カ所ならその半分の月額四万円で毎日、頻繁に打ち合わせができるのだから、ほとんどただで同じオフィスにいるのと変わらない環境が整備できる。 これまでは遠隔地を多数、結んだテレビ会議システムの利用といえば、大企業でしか難しいと思われていたが、自分の席に置いたパソコンで、だれでもが参加できるようになる。中小企業にとっては管理コストが激減するので、事業の地域展開が容易になる。全国といわず、同じ県内に五カ所、十カ所の支店・営業所をもつ地方企業にもブロードバンドを経由した映像利用の業務の仕組みは、全く新しい天地を開くことになろう。

 もちろん、外出中にも会議に参加できる。無線LANを提供するカフェチェーンやレストランも街角に増えている。機密事項に渡るときには、セキュリティを厳重にしたサービスもそのうちにできるだろう。会議の記録を一定期間、保管して、発言や結論の正確を期するサービスも行われている。

 これを俳句の同好会、絵画同好会や指導、園英会話の集団学習、保育や育児指導など、単独でも良いし、集合指導のほうが安心できるならば、それでも良いというような弾力的なサービスに応用できる。新しいビジネスチャンスの出現である。

 金融機関や証券会社、各種の申し込み窓口や行政窓口なども、顔を見せて応対してくれれば、ネットワークも安心して使える。

 いよいよ「映像じゃぶじゃぶ」の時代が来る。

先見経済』 2003年12月

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